川野将虎 魂の歩きで“7年越し”の銀獲得 頂点までわずか1秒差 世界陸上男子35キロ競歩 静岡県勢3つ目のメダル

世界陸上オレゴンは7月25日(日本時間)、今大会から新設された男子35キロ競歩が行われ、静岡県小山町出身の川野将虎(23=旭化成)が2時間23分15秒のアジア新記録で銀メダルを獲得した。

今大会、静岡県勢のメダルは男子20キロ競歩の山西利和(静岡西豊田小出)、池田向希(浜松日体高出)の“ワンツーフィニッシュ”に続き3個目。世界陸上で日本勢が獲得した4つのメダルのうち、実に3つが静岡県勢というまさに快挙だ。

世界陸上初出場となった川野。20キロ過ぎまで、2位集団で虎視眈々と上位をうかがうと、残り2キロで東京五輪20キロ競歩金メダリストM.スタノ(イタリア)との初代王者の座を掛けた一騎打ちに。

壮絶な“たたき合い”の末、わずか1秒差で2位でフィニッシュ。倒れこんだ川野は思わず、こぶしを地面に叩きつけ悔しさをあらわにした。

1位とわずか1秒差 初の世界陸上で銀メダルを獲得した川野将虎

現在、社会人2年目の川野が競歩を始めたのは今から8年前、静岡・御殿場南高校1年生の時。「駅伝を走りたい」と高校生になってから始めた陸上競技だが、当時の恩師に勧められ、“転向”を決意した。

初めて出場したレースで「後ろから2番目の選手の周回遅れというダントツ最下位だった」と苦笑いする川野だったが、ここから一気に頭角を現す。

競技歴わずか1年あまりの高校2年生のインターハイ男子5000m競歩で銀メダルを獲得すると、翌年のインターハイでも銅メダル。年代別の日本代表にも選ばれた。

フィニッシュ後、倒れこむのはこの頃から。「世界で戦いたい、オリンピックに出場したい」という強い思いを胸に秘め、すべてを出し切る“魂の歩き”が川野の戦い方だ。

多くの屈辱も味わった。高校時代、一度も負けなかった池田がひと足先に世界陸上に出場。「練習量だけでも池田に勝たないと上にはいけない」と闘志をむき出しにして、今度は池田よりも早く東京五輪への出場切符をつかみ取る。

しかし、2021年東京五輪50キロ競歩では、レース途中体調を崩し、無念の6位。一方、池田は20キロ競歩で銀メダルに輝き、またもや池田の“後塵を拝する”結果となった。その後も貧血に悩まされるなど、苦しい1年だったはずだ。

競技歴わずか1年あまりでインターハイ銀メダルに輝いた=2015年撮影

再び、立ち上がった“虎”

しかし、川野は行く手に立ちはだかるいくつもの壁を乗り越えた。「世界陸上はあこがれていた大会。ベストパフォーマンスが出せるように頑張っていきたい」。大会前、いつもの笑顔の瞳の奥に燃えたぎるような闘志を見せていた。

距離が縮んだことで、20キロに出場していた世界の強敵が“転向”。まさに大混戦となった新種目で、持ち前の粘り強い“魂の歩き”をいかんなく発揮し、見事、銀メダルに輝いた。

フィニッシュ後、倒れこむも再び立ち上がった川野。「メダルという大きな目標を叶えることはできたがまだ金メダルは取れていない。ここで慢心せず、次の世界陸上、パリ五輪に向けて精一杯頑張っていきたい」と力強く前を見据えた。

和歌山で獲得した銀メダルから7年。“小山町の虎”から“世界の虎”へと飛躍する川野にとって、オレゴンの地で再び掴んだ同じ色のメダルは通過点に過ぎない。

“小山町の虎”から“世界の虎”へ 川野にとって7年越しの銀は通過点に過ぎない

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