農業の生産資材高騰 苦しむ現場、回復見通せず 長崎

写真左から ミニトマトを栽培する谷口氏=諫早市森山町(JAながさき県央提供)、肥育する牛に餌をやる渡部氏=長崎市松崎町

 ロシアによるウクライナ侵攻や円安などの影響で、あらゆる物価が高騰している。輸入に頼る家畜の飼料や畑の肥料、燃油など農業生産資材も深刻だ。多くの農家は負担が増えても市場価格に転嫁できない。回復が見通せず、苦しむ長崎県内の生産現場を取材した。

■収入、餌代で消える JA長崎せいひ肥育牛部会長 渡部英二氏

 「日本から畜産がなくなるかもしれない-。それぐらいの危機感を持っている」
 JA長崎せいひ肥育牛部会(18人)の渡部英二部会長(59)は切実な胸の内を語る。
 2012年の全国和牛能力共進会長崎大会で日本一の称号を手にした「長崎和牛」の生産者。長崎市松崎町で約600頭を育てており、年間360頭ほど出荷している。
 餌は、牧草や、わらなどの「粗飼料」と、トウモロコシなど穀類を主とした「配合飼料」がある。このうち配合飼料の原料は輸入頼み。中国の需要増に供給が追いつかず、2年ほど前から値上がりが始まり、ここにきてウクライナ情勢や円安が直撃。さらに高騰している。
 渡部氏の場合、1カ月の餌代が昨年比で約150万円増、一昨年と比べれば約300万円増に。牛の肥育歴36年だが「収入が餌代ですべて消えていくのが現状。ここまで厳しいのは畜産農家になってから初めて」と肩を落とす。
 配合飼料は、異常高騰時に国と飼料メーカーが基金で上昇分を補塡(ほてん)する価格安定制度があるが、高止まりが続く状況では利用できない。その上、牛舎の光熱水費や牛の輸送代なども軒並み上昇。渡部氏は「先が見通せればまだいい。見えないので…」とうつむく。
 今後、生産コストを削減するには、子牛の仕入れ価格を抑えるか、頭数を減らすしかないという。いずれにせよ、そのしわ寄せは子牛を供給する繁殖農家に及び、肥育農家と共倒れになりかねない。渡部氏は、そんな最悪のシナリオを念頭に「将来の農業を守るため、国や県など各関係機関にさらなる支援をお願いしたい」と語った。

■温度管理の負担増 JAながさき県央南部地区ミニトマト部会長 谷口悠悟氏

 JAながさき県央南部地区ミニトマト部会(43人)の谷口悠悟部会長(34)は、諫早市森山町の干拓地48アールでミニトマトを栽培している。同部会の年間出荷量は約千トン。県全体の約半分に当たる。
 肥料は前もって安い時期に買いだめしていた。価格を据え置くなどJAの配慮で「正直まだ大打撃は受けていない」とはいえ、来期以降は「上がってくるから対策をしなければ」と気をもむ。
 ミニトマトのような施設園芸にとっては、冬場のビニールハウス内の温度管理が生命線だ。それだけに、もっぱらの心配は重油価格の動向。2020年5月の全国平均1リットル66.8円から、今年3月は同111.3円まで高騰した。セーフティーネットがあるものの、国の補助は半分で、残りは個人負担。「助けられた感じはない。もっと補塡があれば」と望む。
 節約にも余念がない。新しい機械の導入や、暖房機のすすを払って燃費をよくし、ハウスを二重にして保温性を高めるなど工夫を凝らす。苦しい状況だが「自分たちだけじゃなく、全国の農家さんも同じ。技術を磨いて取れる量を増やして付加価値を高めたい」と前を向く。


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