日本は世界有数の「透析大国」誰でもなる可能性 現況、予防策、平均余命は?専門医に聞く

日本では透析患者数が世界の中でも多いことが報じられている。ジャーナリストの深月ユリア氏が専門医を取材し、その実情や対策を聞いた。

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「世界一の長寿国」の日本だが、実は、医療が発達し、国民皆保険制度もあって世界有数の透析大国でもある。

人工透析とは腎臓の機能を人工的に代替する医療行為であり、主に在宅でできる腹膜透析(腹部の手術をして透析液を出し入れし、尿毒素を出す)と血液透析(動脈と静脈をつなげる手術をして、血液を浄化する)とがある。

日本透析医学会の統計によると、2020年は国民361人に1人が透析患者であり、人口あたりの透析率は台湾に次いで世界第2位である。

腎臓機能は加齢によっても衰えていくが、透析にならないためにはどうすればよいのか。筆者は多くのメディアでも活躍している著名医師で、「腎内科クリニック世田谷」の菅沼信也院長に取材した。

ー透析にならないためにはどうすればよいですか?

「糖尿病、腎炎、高血圧の方が腎臓の機能が悪くなりやすいですが、腎臓は相当悪くなるまで自覚症状が出にくいです。なので、なるべく毎年、人間ドックなどで血液・尿検査を受けることをお勧めします。腎臓の機能は健康な方でも60歳くらいの方は約2割、80歳くらいの方は約4割、加齢によって落ちていきますので(個人差あり)、決して珍しい病気ではありません。また、食生活で塩分を採りすぎないことも重要です。塩分の採りすぎは高血圧の原因になります」

ー透析になると、平均余命は短くなるのですか?

「いったん、透析を導入してしまうと、残念ながら、残りの平均余命が通常の半分くらいになるとは言われます。当院では、なるべく、透析にならないために腎臓の機能を悪化させない、あるいは透析をする時期を遅らせるよう指導をしております」

ー透析患者は新型コロナが重症化しやすいですか?

「7月14日の新型コロウイルス感染対策合同委員会によると、透析患者(累計)7217人のうち573人の方が死亡しています(※ただし、日本透析医学会の調査によると、オミクロン株「第6波」では透析患者の死亡率は2.7%に下がっていて、30代の死者はなく、高齢になるほど死亡率が高かった)。当院ではラゲブリオ内服をしておりますが、治療薬が開発される以前にタミフルを処方した際に、一定の治療効果がありました」

ー透析になってから、なるべく健康的に長生きするにはどうすればよいですか?

「腎臓は24時間働きますので、当院では、なるべくたくさん、ゆっくり時間をかけて透析することを勧めております。平均は週3回、なるべく1回6時間以上かけるようお勧めしております。『時間を使えるか』がネックになりますが、在宅でもできますし、来院いただいて金曜の夜から睡眠中に透析できる『オーバーナイト』透析もございます。透析の量を増やすことで、食事の制限も緩和されますので、栄養のあるお食事のしっかり食べていただけるよう勧めております。一生懸命、この方針を貫いておりますので、当院の透析患者の死亡率は全国平均の半分くらいになります。若い頃に透析をはじめて、50年間、透析をしている方も通院されていらっしゃいます」

ー透析を始めた患者さんの感想はどんなものですか?

「透析を導入する前は食欲もなく、体が疲れやすくむくんで、呼吸も苦しい状態が、そのような症状がみるみるうちになくなり『楽になった』という方が多いですね」

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誰でも加齢と共に腎臓が悪化して透析をせざるを得ない状況になりかねないなら、決して珍しい病気ではないということだ。自分自身と健康と向き合う時間がとれないほど、仕事に忙殺されている日本人も多いが、透析の問題に限らず、「残りの人生をいかに生きるか」を考え、自分自身の心身を大事にしていきたい。

(ジャーナリスト・深月ユリア)

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