【橋下徹研究⑫】橋下徹がついた致命的なウソ|山口敬之【WEB連載第13回】 橋下徹氏は、上海電力のステルス参入問題について、繰り返しウソをつき続けている――。にもかかわらず、7月26日、橋下氏はツイッターでこう吠えた。「月刊ハナダよ、俺と上海電力を闇と言うなら、安倍さんを含む自民党と旧統一教会も闇だと言えよ。人を見て主張を変えるアンフェアの典型やな。近々フェアの思考という本を出すから、それでフェアについて勉強しろ」。フェアでないのは橋下氏のほうだ!(詳細は26日発売の9月号をお読みください!)

上海電力のステルス参入問題、数々のウソ

「NewsBAR橋下」で上から目線で、ウソを連発!

橋下徹氏は、上海電力のステルス参入問題について、繰り返しウソをつき続けている。

最初についたウソは「上海電力日本は入札で参入した」「WTOルールなどから大阪市として入札から排除することは不可能だった」というものだった。

これは5月7日のインターネット番組の中で弁護士の北村晴男氏に対して述べたもので、橋下氏は北村氏に対して、
「WTOルール知らないんですか」「行政のことを知らない人」などと非難した。

ところが、橋下氏のこの日の主張は全くの虚偽だった。

2012年12月に行われた入札時には上海電力日本はまだ設立されておらず、したがって入札に参加できるはずもないのだ。

カメラの前で堂々とウソをつき、ウソによって他の人を罵倒し、市長としての責任を逃れようとする橋下氏の厚顔無恥には言葉もない。その後も橋下氏はウソにウソを重ねた。そして、ついに致命的なウソをついた。

上海電力が今日も発電事業で稼いでいる咲洲メガソーラーが行われている土地について、
(1)遊休土地の有効活用としてスタートした事業であり、
(2)副市長が決裁した「副市長案件」で、市長の自分は指示を出したり報告を受けたりしていない
と主張したことだ。

これは橋下氏の新たなウソであるばかりでなく、疑惑の闇の深さを自ら露呈している。

最大のポイントは「遊休土地」というウソである。現在上海電力日本が発電を行なっている土地は、決して「遊休土地」などではなかった。全く違うプロジェクトの基幹事業として、全く違う実証実験を行うはずの予定地だった。

そして、そのプロジェクトこそ、橋下徹氏が府知事時代に推進した壮大な「総合特区構想」だったのである。

「咲洲地区スマートコミュニティ実証実験」

当時大阪市が咲洲で行なっていたのは、近未来の都市のエネルギーのあり方を実証的に実験するという極めて先進的な取り組みだった。これについては、6月10日の大阪市議会で大阪市環境局の担当者が詳細に答弁した。

前回の拙稿でも指摘したが、この答弁には、橋下徹氏の数々のウソを粉砕する決定的な事実がいくつも提示されている。

大阪市環境局によれば、当時咲洲では
(1)2011年に策定された「大阪市経済成長戦略」に基づき、環境とエネルギーに関する一大プロジェクトが進められていた
(2)隣の夢洲ではメガソーラー、咲洲では「スマートコミュニティ実証実験」という棲み分けだった
(3)「実証実験」では、下水熱やバイオマス発電などの分散型エネルギーを活用し建物間でエネルギーをやり取りする技術の実証や検討を行った
と答弁した。

私が入手した「大阪市経済成長戦略」と「咲洲地区スマートコミュニティ実証実験」に関する資料には、環境局の答弁の内容がはっきりと明記されている。

夢洲ではメガソーラー事業をやると書いてあるが、咲洲では2011年3月まではメガソーラー計画はなかったことがわかる。その代わりに計画されていたのは「電気自動車普及拡大充電施設」と「分散型太陽光発電」だった。

この地図で赤線で囲まれているのが、「咲洲コスモスクエア地区」で、ここではメガソーラーではなく「近未来のエネルギー需給の安定化などを目指した実証実験」が予定されていたことがわかる。現在、上海電力がメガソーラー事業を行なっている土地は、このコスモスクエア地区の北西端だ。

ここでは「分散型太陽光の実証実験」の拠点として使われるはずだった。

[2011年当時の計画]
[咲洲北西端の現在の航空写真]

分散型太陽光発電予定地4ヶ所のうちの1ヶ所が、橋下氏が市長になったあと、いつの間にかメガソーラー事業にすり替わったのだ。

政府から複数の補助金を受け取った重要プロジェクト

大阪市長は、2011年(平成23年)12月に、それまでの平松邦夫氏から橋下徹氏に代わる。橋下氏は、府知事時代から敵対していた平松氏が策定した事業だからという理由で、この咲洲地区における意欲的なプロジェクトを白紙撤回したのだろうか?

そうではない。咲洲では橋下市長の元でもスマートコミュニティ実証実験を予定通り実施し、その結果を公表している。

橋下市長時代の2013年(平成25年)3月に取りまとめられた「咲洲地区スマートコミュニティ実証実験」の報告書のタイトルに注目してほしい。「先導的都市環境形成促進事業」の「事業費補助金」に関する実績報告書という題名になっていることがわかる。

そう、この事業は大阪市が勝手に行ったものではなく、政府に事前に計画を申請し補助金を受け取っていた「政府補助事業」だったのだ。だからこそ「政府からいただいた補助金をきちんと有効に活用しました」ということを報告するために、76ページにも及ぶ膨大な報告書が作られたのだ。

補助金については、6月10日の大阪市議会でも大阪市環境局が「国土交通省な補助事業だった」と受給を明言している。大阪市は咲洲地区での実証実験に絡んで受給した補助金については、いくつもの資料が出てきている。

例えば2011年度に経済産業省がスマートコミュニティに関する実証実験を行うために全国の自治体向けに用意した予算156.8億円のうち、実に136.6億円が大阪市に振り向けられていた。

日本全体のスマートコミュニティに関する予算のうち、87%以上が大阪市に与えられたことになる。こうなると大阪市の責任は重大だ。

地方自治体が国から補助金を受給する場合、国が策定した事業計画のガイドラインに沿った実施計画を綿密に練り上げた上で審査を受け、合格した自治体だけが補助金を受け取ることが出来る。そして、事業が計画通りに行われなかった場合には、補助金をカットされたり全額返還を求められたりする。

だから自治体サイドは、一旦受け取った補助金を召し上げられる最悪の事態を防ぐために、国の審査に合格した計画通り、完璧に事業を進めようとする。

ところが、「咲洲地区スマートコミュニティ実証実験」では、国に提出した計画の「ある部分」だけ、補助金受給後に変更された。その「ある部分」こそ、現在上海電力がメガソーラー発電を行なっている問題の土地なのだ。

大阪市が国に提出していた計画書では、小規模な「分散型太陽光発電」を4ヶ所に設置して、それらを連結して一体として運用するというのが実証実験の根幹だった。ところが4ヶ所のうちの1ヶ所が実証実験から外され、市民の知らないうちにメガソーラー事業にすり替わっていたのだ。

「国際戦略総合特区」を生み出した橋下徹

そして「咲洲地区スマートコミュニティ実証実験」は、国に提出した計画通り正確に事業を遂行しなければならない、もう一つの大きな理由があった。

それは、この実証実験が「関西イノベーション国際戦略総合特区」という、大阪市が近隣自治体の5自治体と共同で策定した大プロジェクトに組み込まれたからだ。

「総合特区」とは、国際競争力の強化や地域の活性化を目指し、各自治体の特色を活かしたプロジェクトに対して国が税制や規制などの面で優遇措置を与えるというもので、2011年6月から本格的にスタートした。

「関西イノベーション国際戦略総合特区」は、橋下徹府知事時代の大阪府が旗振り役となって、大阪府・大阪市・兵庫県・神戸市・京都府・京都市の6自治体が参加する一大プロジェクトとなった。

柱に掲げられたのが「ライフサイエンス&グリーン」、すなわち「先端医療」と「環境エネルギー」だった。

だからこそ、「咲洲地区スマートコミュニティ実証実験」はこの特区の中核事業として位置付けられた。

ところが、この橋下氏肝煎りの「関西イノベーション国際戦略総合特区」の中核事業である実証実験の一部が白紙撤回され、いつの間にかその土地が「上海電力によるメガソーラー事業」にすり替わってしまったのである。

そんな大それたことが、大阪市の副市長や港湾局長ごときに出来るわけがない。

橋下徹氏の府知事時代からの大プロジェクトの中核に大きな変更を加えられる人物はただ一人、橋下徹氏本人だけである。

(つづく)

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山口敬之

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