赤テントに懸ける(4)清本祐介さん 初舞台 8年越しで実現

「スーパーキャッツの跳び箱ショー」で大きな跳躍を見せる清本さん。舞台に立てる喜びをかみしめている

 警察官役から逃げる囚人役たちが跳び箱で宙返りなどの鮮やかな跳躍芸を次々と披露する「スーパーキャッツの跳び箱ショー」。6人いる囚人役の1人の清本祐介さん(26)は今年2月、神奈川県鎌倉市で初舞台を踏み、高校生の時に抱いた夢を8年越しでかなえた。

 兵庫県伊丹市出身。木下サーカスとの出合いは高校時代、アルバイトをしていた飲食店で先輩の宮内良さん(34)が「木下サーカスに入る」と言って店を辞めたのがきっかけだ。高校3年の時、地元で公演があると聞き、見に行った。

 笑顔で伸び伸びと演技する団員たちを見て「楽しそう。自分もあの輪に加わりたい」と思った。もともと運動が得意で、幼稚園から中学1年まで体操のクラブチームにいたこともあり自信はあった。

 ただ、サーカスへの就職は親に反対されて諦め、高校卒業後は鉄工所に就職。その後、バーの店長もしたが、「自分がしたい仕事ではない」と感じていた。木下サーカスの公演が近くであると見に行ったり、宮内さんに話を聞いたりして悶々(もんもん)と過ごした。

 2018年、23歳の時に両親に黙って木下サーカスの採用試験を受けた。団員の空きがなく採用されなかったが、しばらくして宮内さんから電話がかかってきた。「社長が来年また受けてほしいと言っている」

 一気に視界が開けた。体操教室で昼間アルバイトしながら空いた時間に練習し、夜はトラックの運転手をした。1年後、願いがかなって採用。両親も「そこまでやりたければ」と認めてくれた。

 24歳での入団は遅い方だったが、それからも長かった。裏方の仕事を半年間した後、個別の演目の練習を許され、「すぐにできそう」との理由でスーパーキャッツを選んだ。

 最初の1年は、より高く跳べるよう、走って踏み切り板でジャンプするまでを繰り返した。その後、宙返りなど4種の技を3カ月ずつかけて習得。手足の伸びや滞空時間、表情など全てに完璧さを求められた。練習を始めてからデビューまでに約2年を要した。

 「『楽しそう』に見えた先輩たちの演技は、妥協を許さないプロ意識に裏打ちされていた」。厳しい洗礼を経て、ようやく同じスタートラインに立てたことに喜びを感じながら舞台に上がる。

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