アルバイト募集で「外国人お断り」? 元従業員の“差別告発”に、会社はどう答えたか  10年以上たった今も「ストレスで眠れない時がある」

広島アンデルセンの店舗。原爆の被害を受けた「被爆建物」をリニューアルして使用している=7月、広島市

 全国展開する製パン店「アンデルセン」で約10年前、アルバイト募集の際に中国人を断る差別があったと、当時アルバイトとして働いていた女性がブログで告発した。企業の採用差別を巡っては、牛丼チェーンの吉野家が問題になったばかり。吉野家は今年5月、採用説明会に予約した学生を外国籍と判断し、参加を断っていたことが発覚して、批判を浴びた。
 だが、今回の告発は年数がたっていて、事実確認は難しい。アンデルセンはどう答えるのか、取材した。(共同通信ヘイト問題取材班)
 

 ▽職場に「断ること」の貼り紙

 ブログに告発文が公開されたのは7月4日。「ベーカリーショップ『アンデルセン』で起こった民族差別について告発します」とのタイトルだった。
 

民族差別があったと告発する元アルバイト女性のブログ

 アンデルセンは1967年創業の広島アンデルセン(広島市)を旗艦店に、全国展開する老舗のパン屋。告発は、アンデルセン京都伊勢丹店(京都市)で2011年8月ごろに差別事件があったとしている。
 ブログに書かれてある概要はこうだ。
 店に勤務する社員が、中国人からのバイトの応募は断るように従業員に伝え、店の電話機の付近に「中国人は断ること」と貼り紙をした。疑問に思ったアルバイトの女性は、社員に「国籍を理由に採用を断るなんて差別でしょう」と訴えた。
 社員は「中国人のバイト志望は断れ、という決まりですので…」と答えた。では、どう中国人と判断するのか? 別のアルバイトは「李さんとか、名前で分かりますよね」。女性が、李は韓国人にもいると指摘すると、さっきとは別のアルバイトが「韓国人も駄目でしょ」と言い放った。
 女性は職場で明かしていなかったが、日本名で暮らす在日韓国人。「じゃあ私は韓国人ですので、この職場から即刻離れます」と伝えた。
 しばらくして、社員たちから電話やメールで連絡があり、謝罪を受けた。差別についての社員の説明は以下のようなものだった。「京都伊勢丹店が独断で決めたことではない。上からの指示に従った」「貼り紙は外す」
 貼り紙は一時的に外されたが、しばらくして復活した。これが一因で、女性は2013年10月、約3年半働いた職場を去った。
 

 ▽「不買レベルの差別」

 この告発ブログはツイッターで拡散され、一気に広まった。今年7月25日時点で千件以上リツイートされ「明確な差別だ」「生活圏だったら不買するレベル」など批判の書き込みが目立つ。「釈明なり謝罪なり、今の会社の考えを説明してほしい」「現在の会社方針はどうか気になる」と、現在のアンデルセンがどうしているのかを問う書き込みもあった。

 ▽周囲の従業員は抗議しなかった

 ブログを書いた女性は現在、東京で会社員として働く。電話で取材すると、一度は外された貼り紙が復活した当時の心境をこう語った。「またか、と思った。それで諦めた」
 「韓国人も駄目でしょ」と言われた時、周囲の誰も差別だと抗議しなかったことも心に引っかかった。当時の職場環境を「最悪だった」と振り返る。従業員全体に「中国人や韓国人に対する差別意識があったと思う」と言葉を絞り出した。
 なぜ今、告発に踏み切ったのか。「今でも眠れない時があるくらいストレスを感じているからですよ」。電話越しの声には怒りがこもっていた。会社ぐるみで雇用差別をしていたのではないか、と女性は考えている。「アンデルセンには当時の雇用条件を開示してほしい」

 ▽国籍条項「一切ありません」

 告発が掲載された翌日の7月5日、アンデルセングループ広報室の担当者は、
取材に「ブログは把握している。当時働いていた社員に聞き取りをしている」と応えた。社内調査を急いでいるという。
 そこで翌6日、広報室に調査の進展を聞いたところ「第三者の弁護士を含めた調査チームを立ち上げて、事実関係を調べる」と担当者は答えた。10年前の事実確認に時間がかかるのは仕方がないと言える。そこで、現在はどうなのかを聞いてみた。雇用条件に国籍・民族条項が現在あるかどうかを尋ねると、「事実関係を調べている」という。今、差別的な条項が存在する可能性があるという意味なのだろうかと疑問に思ったが、回答を待つことにした。
 

アンデルセングループ広報室からの回答書。民族・国籍差別は「一切ありません」と記載されている

 広報室から正式な回答が来たのは、ブログの掲載から20日後の25日。「現在、会社が特定の国籍や民族の人を雇用(アルバイトも含め)しない規定や方針はあるか」という質問に対しては「一切ありません」との回答だった。
 広報室によると、7月7日に社外の弁護士を含む9人で調査委員会を設置し、告発の事実関係を調査しているという。

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