【在宅医・佐々木淳】自由と責任

新型コロナ第7波。

感染しても重症化しないし、あまり気にしなくてもいい、これがたぶんみんなの共通認識。だけど、東京では現在、24人が人工呼吸器につながっています。死者も着々と積み上がっています。

熱が出て具合が悪くても、半日電話をかけ続けても受診先が見つからない。救急車は呼んでもなかなか来ない。ようやく来たと思っても、搬送先が見つからない。入院したくでもできない。昨年の夏と同じです。

そして今回は(主に子供を経由して)けた違いに医療専門職にも感染が拡がっています。僕らも複数のクリニックで大幅に診療機能が低下しました。このような事態は病院でも多発しています。そろそろコロナ以外の病気の治療にも支障が出てくるはずです。

自由には責任を伴います。私たちは、その時々の状況に応じて最適な行動を選択する。そして、その選択の結果に対して責任を負う。政府の「行動制限しない」というのは、感染対策しなくていい、という意味ではありません。自分の頭で考えて合理的に行動せよ、ということであるはずです。

①その時々の状況に応じた合理的な感染対策、
②合理的な感染時の対応、
③医療提供体制維持、

これができて初めて「ウィズコロナ」ということになるのだと思います。

①と②はやろうと思えばできるはずです。安全に経済活動を継続することは難しくありません。中には一時的に延期したほうがいいイベントもあるかもしれません。延期できないなら、ワクチン接種を含め、自分を守る、自分と生活を共にする人を守ることをこれまでより少し意識したほうがいいと思います。

③医療提供体制は、いま非常に厳しい状況にあります。病院にかからない人にはわからないかもしれません。だけど、いざ医療が必要となったとき、「一体どうなってるんだ!」ときっと感じると思います。すでに、発熱外来も救急診療もキャパシティの限界に達しています。ぜひこの4つにご協力をください。

●基礎疾患のない若い人は、原則自宅で経過観察。医療機関を受診しない。
●陽性の同居者がいる人は症状出たら陽性とみなす。追加検査する必要はない。
●学校や職場は、具合の悪い人やみなし陽性の人に陽性証明を求めない。
●とにかく重症化した人への医療アクセスの確保を最優先する。

それでもコロナかどうか知りたい、という方は、いつでも自己診断できるよう、あらかじめ抗原検査キット(体外診断用医薬品として承認されたもの)を薬局で購入し、自宅に配備しておくことを強くおすすめします。自治体によっては感染が疑われる場合、「検査キット配布センター」から無料で届けてもらえます。ウェブサイト等で確認を。ただし、キットが自宅に到着まで2日程度かかるのと、対応力に上限があることから、やはりあらかじめ手元に確保しておくのがよいと思います。

加えて解熱鎮痛剤を配備しておきましょう。重症化リスクのない人は受診しても結局、対症療法(解熱鎮痛剤や咳止めの処方など)だけです。代表的な解熱鎮痛剤であるアセトアミノフェンの場合、大人で1回300~500mg、子供は1回あたり10~15mg×体重が目安。市販薬だとタイレノールAとラックルが1錠あたり300mg、ノーシンACだと150mg、大人は2~3錠をまとめて飲む感じになります。

医療用医薬品としてのアセトアミノフェン(カロナールなど)はいま需要の急拡大で出荷調整に入っています。薬局でも購入が難しくなるかもしれません。その場合には、ロキソプロフェンやイブプロフェンなど、そのほかの消炎鎮痛作用のある成分が配合されているものを選択してもよいと思います。薬局で薬剤師さんに相談してみましょう。

この2つと非常用食材があれば、医療機関を受診することなく在宅療養ができます。なお、認証された抗原検査キットであれば、自宅での自己検査の結果で、陽性の登録を行うこともできるようになっています。

現在(僕の個人的経験の範囲内の印象ですが)発熱外来を受診する人の8割以上は、基礎疾患のない若い軽症の人たちです。中には発熱や咽頭痛が辛くて受診する人もいますが、その多くは検査(確定診断)目的です。医療機関で診断し、陽性証明が出ないと学校や仕事を休めない、あるいは保険の入院給付金が下りないというのがその理由。

でも、そんなことのために発熱外来がパンクし、本当に医療につながなければならない重症化リスクの高い人、抗ウイルス薬の投与などが必要な人が医療にアクセスできないなんて許されるでしょうか?学校や職場の総務人事担当者は、社会的状況を鑑み、陽性証明書や診断書の提出を求めることを直ちに停止してください。

東京の新規感染者数が5万人を超えたら、相当に厳しいことになると思います。山場はまだまだ先。いま私たちにできることは、合理的な感染拡大防止のための工夫と、感染したときに医療機関を受診しなくてもよいように備えておくこと(おそらく受診したくても、そう簡単には受診できないはず)です。

行動制限をしない。これは政府の宣言であるとともに、国民のコンセンサスでもあったはず。

私たちは自由を選択しました。その結果に対し、責任を負う時が来ています。

自粛警察のような社会的圧力に屈するのではなく、一人ひとりがスマートにしなやかに対応できること。これはウィズコロナの時代への最初の試練なのかもしれません。

一緒に次のステップに進みましょう。

(写真:佐々木医師提供)

佐々木 淳

医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長 1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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