アニメ化決定の漫画「チ。-地球の運動について-」作者の魚豊さんに聞く 探究心の原動、子ども時代は

©魚豊/小学館
©魚豊/小学館

 異端とされた“地動説”の証明、「真理の探究」にかけた人たちを描いた「チ。-地球の運動について-」が、24歳(受賞決定時)で手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞など数々の高い評価を得た漫画家の魚豊(うおと)さん。「人間の探究心の源はタウマゼイン(『驚き』『驚異』などの意味)だと思います」という魚豊さんに、探究の意味や人を探究に駆り立てる原動力、魚豊さん自身が学びに駆り立てられた経験などを聞きました。

「タウマゼイン」とは、自分の理解が及ばない問題があると気づいたときに感じる「驚き」「驚異」などを意味するギリシャ語ですね。空を見上げたとき「この星々はどこから来たんだろうか」という問題に気づいたときに感じるような。 魚豊 はい。僕はその存在を信じてます。その探究心は何よりも尊いものであると信じてます。

 なぜ人は考えるのか、その源はなにか。逆説的ですが答えがないからだと思います。18世紀の哲学者カントの言った「真理が出ないという真理」は言うまでもなく革命的ですごいアイデアだと思います。

 しかし、だからって皆が神とか宇宙とかを考えなくなったかというと、そうではなく、寧ろアポリア(難題または困惑)は、その不可能性によって妖(あや)しい魅力をムンムンと放って人間理性を翻弄し続ける訳です。

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難題に人間は引き寄せられてしまう、と。 魚豊 その手の答えの出ない問題や、宙吊りにされればされるほどに人は追い求めてしまうものなのではないかと思います。それはもしかしたら愚かなのかもしれません。しかし、愚かだからこそ優れて人間性の一つなのだと思います。

「チ。」を読むと、魚豊さんが歴史、哲学、宗教など幅広い知識や、自身の考えもきちんと持っていることがうかがえます。そうした学びは、どういう過程で身に付けられたのでしょうか。 魚豊 全く浅学で恥ずかしいのですが、大学で、なにかと異常にいろいろ知ってる人に出会った時のワクワク感というのは一つ学びの動機としてあると思います。

 それは、僕がベタにスノビズム(見栄を張るような俗物精神)というか、ペダンチック(知識をひけらかす態度)にやられやすいという性分でもあるからだと思うのですが、なんかそういった話が面白くて、会話をなんとか吸収したいという思いからいろいろ調べた気がします。

いろいろ調べて自分の知識が増えて、変わったことはありますか。 魚豊 僕はそもそも感受性の鈍い人間なので、景色などを見て感動することがあまりなかったのですが、たとえば崇高論を知ってから山を見ると「おぉ…なんかすごい」と、より趣深く景色を感知することができる。

知識が心を豊かにする、と。 魚豊 まさしくです。そんなのは無粋なドーピングだと心のどこかでは思いますが、しかし確かにそういった面での楽しみというか、知れば知るほど世界を豊かに感じられるということもあると思います。

 理性が感情を育んでいく事もあるし、それによって感受性は後天的にいくらでも増す。それは人間の本当に素晴らしい能力・機能だと思います。

 そういった事情からいろいろと好奇心が芽生えて…とか言ってますが、マジで全然何も知らないのでどの口で言ってんのか分からなく…お恥ずかしいです…マジで…。

魚豊さんの子ども時代を教えてください。 魚豊 今もですがひねくれてビビりで生意気な悪い子どもだったと思います。ただ、友達との会話が本当に楽しくて、それは本当に幸運に恵まれました。そこでの会話で、何に人はウケるのか、どう話せば興味を持つのかといった、大衆性の一端のようなものをいろいろと学ばせてもらった感じはあります。

 ◇魚豊(うおと) 東京都出身。2018年マンガアプリにて「ひゃくえむ」で連載デビュー。「チ。」で第26回手塚治虫文化賞マンガ大賞を満場一致で受賞した。24歳(受賞決定時)での受賞は史上最年少。

 ◇「チ。-地球の運動について-」 15世紀の欧州を舞台とし、異端思想とされた「地動説」の究明を受け継いでいく者たちの物語。コミックス終巻の第8集が6月に刊行された。累計売り上げ約250万部で、アニメ化が決まっている。

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