手形交換所の交換業務に幕 電子交換所にシフトへ 紙の手形廃止に向け、でんさいの存在感がじわり上昇

 2022年11月、全国の手形交換所の業務が終了し、交換業務を電子交換所に移管する。政府は、紙の手形や小切手を2026年度をめどに廃止する方針で、「でんさい」やインターネットバンキングなど電子化の取り組みが加速してきた。
 現金決済の増加やでんさいへのシフトなどで、2021年の約束手形の交換高は122兆9,846億円(前年比8.3%減)と、ピークの1990年(4,797兆2,906億円)から97.4%減と大幅に減少。一方で、2021年の「でんさい」は27兆2,182億円(前年比23.0%増)と大幅に上昇している。ただ、でんさいを利用する会社は大都市が多く、業種の偏りもあり、手形がでんさいに置き換わるにはまだ時間が必要だ。
 今年11月2日、全国179カ所の手形交換所の交換業務廃止に伴い、同月4日から全国統一の電子交換所にシフトする。利用者の手続きに変更はなく、紙の手形もこれまで通り利用できるが、金融機関が手形を「イメージデータ」に変換し、電子交換所に送受信する仕組みに変わる。
 2013年2月に始まったでんさいは、紙の手形と異なり印紙税が必要なく、郵送や取り立てなど事務作業も軽減される。電子化することで紛失や盗難のリスクもない。スタートから約2年で利用登録の社数は40万社を突破したが、その後は一進一退をたどり、2019年5月は初めて登録社数がマイナスになるなど伸び悩んだ。ただ、コロナ禍で電子化の動きが加速し、2021年から再び増加ペースが強まっている。

  • ※本調査は、一般社団法人全国銀行協会の全国手形交換高・不渡手形実数・取引停止処分(1960年~)と、でんさいネット請求等取扱高(2013年2月~)を基に分析した。「でんさいネット」は、全国銀行協会が設立した電子債権記録機関「株式会社全銀電子債権ネットワーク」の通称で、「でんさい」は同社の登録商標。

手形交換高が急減、100兆円割れも視野に

 2021年の手形交換高は、122兆9,846億円(前年比8.3%減)まで減少した。5年連続の減少で、でんさいやインターネットバンキングへの移行が進みつつある。  バブル期の1990年の手形交換高は4,797兆2,906億円に達し、決済の主流だった。 
 その後は大手企業を中心に現金決済にシフトし、手形交換高は2001年に1,000兆円、2006年には500兆円を割り込んだ。
 全国銀行協会が集計対象とする全国各地の手形交換所は、手形交換枚数の増加に伴い増設され、1987年、1988年、1997年は最多の185カ所まで拡大した。
 しかし、手形振出の減少から統廃合が相次ぎ、2017年に現在の107カ所になった。全銀協によると、2022年3月22日現在の法務大臣指定の手形交換所と、少数の金融機関が構成する私設手形交換所などを含めると、全国に179カ所の手形交換所がある。
 2022年11月2日、179カ所の手形交換所が交換業務を終了し、同4日から電子交換所が交換業務を引き継ぐ。
 143年続いた手形交換所の歴史に幕を閉じ、手形の電子化への一歩が始まる。

手形1

「でんさい」登録数は再び増加へ

 「でんさい」の利用者登録数は、40万社を超えた2015年ごろから伸びが鈍化した。2019年5月には初めて前月を下回った。
 その後、コロナ禍で再び「でんさい」が見直され、緩やかだが増勢基調に転じている。
 登録者数の伸び悩みで「でんさい額」(発生記録請求金額)も伸び率が鈍化していたが、2021年は前年比23.0%増と大幅に増加している。

手形2

でんさい利用 サービス業他と不動産・物品賃貸業の利用が低迷

 でんさいネットの業種別請求等取扱高を基に分析した。業種別や都道府県別の登録社数は非公表のため、利用契約件数(1社で複数契約を含むため利用社数とは異なる)と、総務省「経済センサス」(非1次産業集計)で利用率を算出した。最も利用率が高かったのは、金融・保険業の101.3%で、複数のアカウントを契約しているようだ。次いで鉱業、採石業、砂利採取業も96.3%と高く、製造業の41.7%、運輸業の36.9%、建設業の29.2%と続く。
 一方、飲食店などのサービス業他は7.8%、不動産・物品賃貸業が8.9%にとどまり、業種によりでんさい利用率に大きな差があることがわかった。一部の業種に利用率が偏っていることも、でんさい利用者数の増加が鈍い背景にあるかも知れない。

でんさい都道府県別利用率 東京がトップ、佐賀が最下位

 利用契約件数と経済センサスで都道府県別の利用率を算出した。利用率トップは東京の26.1%、2位に広島23.87%、3位は大阪23.81%と大都市が続く。ただ。長野が4位、滋賀が5位に入る一方で、愛知14位、千葉16位、神奈川27位など、市場規模だけが理由ではないようだ。
 最も利用率が低かったのは、佐賀の6.7%。次いで、島根7.1%、沖縄7.4%と続く。業種別で利用比率の高かった製造業や運輸業、建設業などで、地元大手がでんさい利用に積極的でない場合、その影響は取引先にも及ぶ。今後は、地元の大手企業の登録促進と同時に、下請けや取引先の中小企業をいかに登録に誘導するかが、伸び悩みを脱するカギになるだろう。

手形3

◇ ◇ ◇

 手形交換所の交換業務が終了する歴史的な節目の2022年。政府が目指す2026年度までに紙の手形の廃止に向けた取り組みが加速しているが、これから主役となるでんさいも業種や地域によって偏りがみられ、盤石の地位を獲得するまでのハードルは高い。
 電子化と並行し、手形支払サイトの短期化も公正取引委員会などが進めているが、コロナ禍で資金的な体力が落ちている中小企業への配慮は必要だ。また、電子化にはITリテラシーの向上も不可欠で、支援体制の構築を国が積極的に進めるべきだろう。

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