ソングライター鶴久政治、チェッカーズの音楽が今なお普遍性に満ちている理由とは?  個性際立つナンバーがひしめくアルバム「SCREW」で、マサハルの楽曲が見事な調和を果たす!

「絶対チェッカーズ!!」で開花していた “音楽家” 鶴久政治の才能

チェッカーズのクリエイティビティを語る上で欠くことの出来ない存在が、サイドヴォーカル・鶴久政治の音楽家としての才能だ。1986年10月15日にリリースされたシングル「NANA」以降、メンバーが書き下ろした楽曲によるシングルリリースが解散まで続くが、その全20曲のうち、鶴久が手がけた楽曲は全8曲。(Cute Beat Club Band「7つの海の地球儀」Special Tsuruku名義を含む)メンバーの中で最多だ。

鶴久のソングライティングのセンスが世間一般に認知されたのは、チェッカーズとしてシングル通算9作目のオリコンチャート1位を獲得した「WANDERER」だと思うが、そのセンスは、1984年にリリースされたファーストアルバム『絶対チェッカーズ!!』から開花していたと僕は思っている。

『絶対チェッカーズ!!』は、彼らが大ブレイクした「涙のリクエスト」のリリースから約半年後の1984年7月21日にリリースされた。作曲者クレジットに目をやると、全10曲の収録曲のうち、6曲は当時の共同制作者であった芹澤廣明であったが、残りの4曲はメンバーが手がけている。

リーダーの武内享、ベース担当の大土井裕二、そして鶴久の楽曲が2曲(「ウィークエンド アバンチュール」、「HE ME TWO(禁じられた二人)」)が収録されていた。ラテンフレーバーを織り混ぜフックを効かせた「ウィークエンド アバンチュール」も秀逸だが、才気溢れる異色作と思えたのが、「HE ME TWO(禁じられた二人)」だった。

同性愛をテーマに鶴久のファルセットヴォーカルで全編が歌われたこの楽曲、リリックのテーマに関しては、前年にラッツ&スターが「今夜はフィジカル」という同テーマを扱った楽曲をリリースしていたので、さほど違和感はなかった。しかし、今思えば、ある種ネオアコ的な解釈も出来る清涼感溢れるメロディとアレンジは、ドゥーワップ、ロックンロールをベースとしながらも、彼らのサウンドの醍醐味である不良性とは一線を画し、チェッカーズのキャラクターイメージから考えると極めて異質に感じた。しかし、それと同時にクセになる魔力を持ち合わせていたのも確かなことだった。

鶴久楽曲最大の魅力は、親和性と浮遊感を併せ持ったポピュラリティ

かといって、鶴久の音楽性がロックンロールの持つ不良性とは離れた部分に存在していたかといえば、そうではない。アマチュア時代、ダンスパーティに行く時、グリースを買う金がなくて、メンソレータムを髪に塗りリーゼントを作り出かけた。という氏のエピソードが大好きなのだが、そんなユニークさをロックンロールのフォーマットに落とし込むような親和性と、浮遊感を併せ持ったポピュラリティが鶴久楽曲の最大の魅力ではないだろうか。

「WANDERER」はシングルとしては初のメンバーオリジナル作品である「NANA」にも通じるワイルドな作風で、根底には、どこかザ・クラッシュの名盤2枚組アルバム『ロンドンコーリング』にも通じる音楽性を感じ取れる。

また、チェッカーズには隠れた名曲として、アルバム『FLOWER』に収録された鶴久作曲の「Two Kids Blues」がある。精神性としては、ザ・モッズからの影響を大きく受けた楽曲があるのだが、「WANDERER」はその延長線上にある楽曲だと思っている。

器用だなと思う反面、しっかりとしたフォーマットを持っているからこそ、鶴久は変幻自在に自分の色で楽曲をクリエイトすることができる。それは先人である大瀧詠一や山下達郎にも共通する部分である。

負けられない賭け、6枚目のオリジナルアルバム「SCREW」

そんな鶴久のカラーをチェッカーズ時代、最大限に発揮出来たのが6枚目のオリジナルアルバム『SCREW』だった。

心機一転、セルフプロデュースでリリースされた『GO』に続く本作は、彼らからしてみれば、意識の上でのセカンドアルバムであったはずだ。それは、決して負けることの出来ない賭けだったと思う。そこで、全11曲の収録曲のうち、鶴久が6曲のソングライティングを手掛けるといった快挙に出る。そして、この『SCREW』は前作『GO』が硬派なブリティッシュビートを主体とした作風だったのに対し、ポピュラリティに富んだ、浮遊感のある、まさに鶴久色の濃い作品となり、チェッカーズの音楽性はグッと深みを増し、次作『Seven Heaven』へと継承されていく。彼らは賭けに勝ったのだ。

特に、鶴久が手がけた冒頭の4曲、「World War Ⅲの報道ミス」から「CRACKER JACKS」までの浮遊感、イギリス経由の時代に即したダンサブルなリズムが革新的で、アルバムのイメージを決定づけた。さらにこのアルバムで彼の手がけた楽曲は、藤井尚之作曲「鳥になった少年の唄」、武内享作曲「ONE NIGHT GIGOLO」といった個性が際立った楽曲を収録しながらも全ての楽曲を調和するようなバランス感覚を持ち合わせている。

ステージにしてもスタジオワークにしても、“あの7人でしか成し得ることが出来なかった” という部分がチェッカーズ最大の魅力だ。7人の立ち位置の中で鶴久の存在は決して派手なものではなかった。しかし、音楽性を深めていく中期以降はその中心にいたと言っても過言ではないだろう。そして彼らの音楽性が解散から30年経とうとする今も普遍性に満ちているのは鶴久政治という音楽家の感性が必要不可欠だったと思う。

カタリベ: 本田隆

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