「全部員78人の勝利 奮い立つ場所経験させてやりたい」甲子園23勝永田裕治監督の“変化”と“不変” 新天地・日大三島で挑む夏1勝

名将が夏の聖地に帰ってくるー。第104回全国高校野球選手権静岡大会で、33年ぶり2回目の優勝を果たした日大三島。率いるのは、報徳学園(兵庫)の監督として、甲子園通算23勝、春のセンバツ優勝の実績を持つ永田裕治監督(58)だ。

全国屈指の名門校の指揮官から、30年以上“表舞台”から遠ざかっていたチームの監督へと転身してから2年余り。「こんなに早く行けるとは」と驚いてみせたが、コロナ禍という過酷な環境の中、チームを着実に成長させ、春夏連続での甲子園出場へと導いた。その手腕に迫った。

チームを33年ぶりとなる夏の甲子園へと導いた日大三島・永田裕治監督=草薙球場

“無慈悲の鬼”が…「先生、変わりましたね」

「一生懸命、一生懸命やろう。こんなに多くの人が応援してくれている。全員で戦おう」。2022年7月29日、静岡大会決勝前の円陣。身振り手振りを交えて、選手たちを鼓舞する永田監督の姿があった。「本当におとなしい子たちばかり。非常にそこが苦労した」。

霊峰富士を望む静岡県三島市にある日大三島高校は、全校生徒1800人を超えるマンモス校。永田監督が就任するまでは、選手の多くが地元・静岡出身。比較的おっとりした性格の人が多いとされる土地柄だ。

ここ数年、関東出身の選手が入学するようになったものの、監督の出身、“血気盛んな”関西と比べると、物足りなく感じていたのだろう。

永田監督は報徳学園時代、練習から一切の妥協を許さない指導を貫いてきた。自らを「無慈悲な鬼」と呼ぶほどだ。しかし、静岡に来てからその指導法を変えたという。「練習量は報徳と比べたら減っていると思う。向こうでは鬼になっていた。でも、ここではそれをすると皆辞めてしまう」

そこで大切にしたのがコミュニケーション。グラウンドで、選手相手に冗談を言うようになったという。ある時、報徳時代の教え子は驚きながら、こう言った。「先生変わりましたね。笑顔がある」。

一方、三島でもぶれなかったことがある。全員野球だ。多くの部員を抱える強豪校ではレギュラー組と控えの練習メニューが別になることがよくあるが、永田監督は違った。全員であいさつし、ランニング、ノック…部員78人全員で行ってきた。これがチームを結束させ、競争を生み、「最後まで絶対にあきらめない」永田野球を醸成させる礎となってきた。

試合前の円陣で鼓舞する永田監督「試合中は怒らないことにしている。雷を落とすのは試合後」

準々決勝、準決勝のための練習

永田監督にとって、この3年間はコロナとの戦いでもあった。2020年4月、鳴り物入りで日大三島の監督に就任するも、グラウンドで練習できたのは4月1日、2日のわずか2日。以降、未知のウイルスに振り回されることになる。

「あいつら自身も顔がわからないし、顔を覚えることに必死だったところからスタートした。慣れないiPadを使ってリモートで指導する日々が続いた」。

夏の選手権は中止となり、代替大会は初戦敗退。苦い1年目だった。それでも「最後まで一生懸命やるチームだった。これがせめてもの救い。感謝しかない」。

今年のチームも振り回された。ただでさえ進学校。土曜日も授業があるため、「静岡で一番練習試合が少ない」という。コロナ禍で練習試合がまったくと言っていいほどできず、センバツに繋がる去年の秋季大会もほぼ、ぶっつけ本番だった。しかし、結果は東海大会を制し、38年ぶりに聖地の土を踏むことになる。

春夏連続出場を期待がかかった夏の静岡大会。大会開幕と時を同じくして始まった“感染爆発”によって、全国各地でその影響が出る中、ポリシーともいえる全員練習も分けて行わざるを得なかった。

それでも、ルーティンは崩さなかった。大会直前3回に分けて行った強化練習。大会が始まっても早朝5時半からの練習は続けた。前日の準決勝、延長13回タイブレークの激闘の末迎えた決勝戦の朝も、およそ1時間汗をかいてから、草薙球場へと向かったという。

「選手の動きがすごく重かったので心配したが『このために、準々決勝、準決勝のために練習しているんだぞと。名門校は、ここからのために練習しているんだぞ』と常々言ってきた。これが実感できたことが、このチームに新たな伝統が生まれるのではないか」

試合中、常に厳しい視線を送っていた永田監督、この時ばかりは目じりが下がった。

「とにかく感染症対策が第一 甲子園には完全な状態で臨みたい」と慎重を期す

「いくつになっても感動を覚える場所を経験させてやりたい」

33年ぶりの甲子園を掛けて戦った静清高校。「実は就任当初からとてもお世話になった。練習試合をやらせてもらったが、9回戦えなかった」。準決勝の相手、掛川西にも去年一方的にやられたという。

「コールド(負け)、コールド(負け)で戦えなかったチームからスタートして、『どれだけ負けるんだ』と。だからこそ(この優勝は)感慨深い」とかみしめる。

「本当にたくましく、一歩ずつ着実に進化している。レギュラーだけでなく、スタンド一体なって戦ってくれたことに感動を覚えるし、感謝しかない。全部員78人の勝利だと思う」。“永田チルドレン”からの感謝の胴上げで、3度宙に待った。

自身春夏通算20回となる甲子園の舞台。「いくつになっても感動を覚える場所。この年齢になっても奮い立つ場所。その甲子園を経験させてあげたいと思いでやってきた」。狙うは春に果たせなかった甲子園1勝。「どこまで通用するかわからないけど全員で戦っていきたい」。百戦錬磨の指揮官の夏は終わらない。

「絶対落とすなよ」と3回宙に舞った永田監督 百戦錬磨の指揮官の夏は続く=草薙球場

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