<南風>少女との約束

 私が司法試験に合格した当時、最終的に弁護士資格を取得するためには1年半の修習を終える必要があった。その間、法曹三者で実務修習があるのだが、検察修習の一環として女子児童自立支援施設を2泊3日で訪れたことがあった。

 さまざまな事情で入所した思春期の少女たちと、訪問中、寝食を共にした。生活スケジュールは厳しかったが、夜は多少の自由時間があり、その時だけは少女たちは思い思いに時を過ごしているようだった。

 2日目の夜、2人の少女の会話が聞こえた。年下の方の子が「林先生(先生でもなんでもないのだが)に頭なでなでしてほしい」と言い、年上の子が「先生は嫁入り前だからだめ!」と慌てて答えた。年長者の言いようにクスっとする以上に、家庭から離れ、あるいはそもそも家庭に居場所がない子たちの会話が、無邪気なだけにこたえた。

 明朝、私は、ほんの短い滞在を経て外の世界に帰った。見送ってくれた少女たち全員の目が「私も早く出たい」と訴えているようで何とも言えない申し訳なさが募った。いよいよ去るという時に、昨晩の会話の年少者がつと私の傍らに寄って来て、思いきり私を見上げながら「先生、弱い人を助ける弁護士さんになってね。お願いね」と真剣なまなざしと声で伝えてきた。

 私は何度もうなずくのが精いっぱいだった。彼女を抱きしめたかったし、頭をなでなでもしたかったが、できなかった。それは何か無責任なことのように思えて仕方がなかった。

 このごく短い出会いからはや20年近くがたつが、私は今でもこの時の彼女の必死な顔つきと声を克明に覚えていて、恐らくこの先も忘れられない。私にとって彼女は一番厳しい評価者・見守り役であり続けるはずである。それを忘れないことが唯一、私が彼女にできることだと思っている。

(林千賀子、弁護士)

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