安倍元首相宅へ配達も…各界重鎮も地元民も愛する老舗の技 うなぎ割烹「高橋屋」4代目社長・高橋明宏さん

特上うな重を手にする4代目社長の高橋明宏さん=埼玉県杉戸町杉戸の高橋屋

 安倍晋三元首相が襲撃された事件発生から2日後の10日正午、埼玉県杉戸町のうなぎ割烹「高橋屋」社長の高橋明宏さん(44)が運転する車が、東京都渋谷区にある安倍元首相の邸宅の門をくぐった。注文のあった特上うな重30食を納めた。納品日の前夜に知人から依頼を受け急きょ対応。「ものすごい重責の中、ご冥福を祈り食材と向き合いながら作った」と振り返る。

 「高橋屋」は各界の重鎮らも愛用する創業150年の老舗だ。4代目の高橋さんは、築地の高級料亭などで7年ほど修業後、傾いた家業の立て直しに着手。顧客へのプレゼンテーション不足に気付き、低価格メニューを前面に押し出し、五感を刺激する店づくりへと手を加えた。さらに2時間ほどかける仕込みの中でも仮蒸し後は150本ほどの小骨をピンセットで抜くなど他店ではできない技を売りに。冷めても柔らかくおいしいことから三代目市川猿之助が楽屋めしに利用したことで歌舞伎界でも愛用されるようになったという。当初年商2500万円だった赤字経営は、現在2億5千万円まで売上高が改善。「来年度は3億円まで売り上げを伸ばす」と意気込む。

 幼少期から先々代の背中を見て接待の神髄を学び、月に10回以上名店を食べ歩き舌を磨き、技を学んだ。長年磨いた味覚や経営センスを強みに、「顧客の嗜好(しこう)に合わせ出身地を聞いて料理の味付けを調整。商談利用では、プロジェクトの規模や内容に合わせた演出も提案する」などきめの細かい経営を心がける。

 昨夏、念願の銀座に進出し「銀座 四代目 高橋屋」を開業。1年目で年商1億円を突破し、浮き沈みの激しい銀座でも波に乗る。約200年の伝統を誇る都内の名店「野田岩」を目標に日本を代表する一流店を目指すが、「銀座店が安定軌道に乗れば『杉戸 高橋屋』と店名を変え、杉戸町の知名度向上に貢献したい」と地元に根差した経営の志は貫き通す。

© 株式会社埼玉新聞社