宇都宮の街に根付く「愉快がる」 「街力」著者と中心街へ はっしん!まちなか記者

宇都宮屋台横丁で談笑する桑原さん(左)と村上社長

 外食産業コンサルタントの傍ら、食や街をテーマにした書籍を多数出版している桑原才介(くわばらさいすけ)さん(81)=都内在住=が5月に出版した書籍「宇都宮『街力(まちぢから)』を掘り起こせ!」。街自体が持つ歴史的な力を「街力」と定義付け、過去から現在へと連なる流れを、そこで暮らす人々へのインタビューを通して浮かび上がらせた一冊だ。桑原と街なかを歩き、本に登場する場所を訪問。この街に根付く「自分から愉快がる」大切さに改めて気付かされた。

 本書では、明治期の「バンバ」のにぎわいに始まり、商店街の興隆、中心市街地の空洞化と再興への挑戦に至るまでを、時代のキーマンやその子孫たちのインタビューで解き明かしている。また、宇都宮がギョーザ、ジャズ、カクテルの街として成長してきた経緯についても、丹念な取材で追った。

 全体を通して強調されているのが、宇都宮に根付く「愉快がる」という生き方だ。それは他者との関わりで初めて成り立つという。「愉快がるためには能動性が必要。歴史的な文脈のなかで、それが街にリズムをつくり出してきた」と指摘する。

 ■オリオン通り広過ぎ

 まちなか支局から宇都宮屋台横丁(二荒町)へ向かう。途中、オリオン通りを歩きながら道幅の話になった。「吉祥寺などと比べても道幅が広過ぎる。空洞化した時にエンタメで空間を埋めるのは世界的な傾向だ。オープンカフェの可能性をつぶしてはいけない」。この街で暮らす人とは異なる視点からの指摘に、重みを感じた。

 「若い起業家を育てる場」として紹介されている宇都宮屋横丁では、運営する「村上」の村上龍也(むらかみたつや)社長(58)と待ち合わせた。本書が誕生するきっかけとなったのが、桑原さんの著書を読んだ村上さんの「宇都宮にもこんな本がほしいなあ」という言葉だった。企画が始動すると村上さんは人脈をフル活用し、次々と取材協力を取り付けた。「かなりこき使われました」。苦笑いしつつも「みんなで作った本。読んだ人たちは絶賛してくれた」とうれしそうだった。

 ■街の魅力は人呼ぶ店

 最後はオリオン通りの「みそだれやきとりかんちゃん」(曲師町)へ。著書の中でも「宇都宮の居酒屋文化を背負うホープ」と絶賛されている神田直樹(かんだなおき)さん(37)が営む人気店だ。同横丁OBでもある神田さんは開店前の仕込みを進めながら、桑原さんとまちづくり談議に花を咲かせる。「屋台での経験が全て。魅力ある街とは、人を呼ぶ良い店がある街だと思う」と話す神田さんからは、次代を担う覚悟が感じられた。

 若手との会話を楽しんだ桑原さん。そのまま、こよいの“愉快がる場”へと消えていった。

 「宇都宮『街力』を掘り起こせ!」は県内の主要書店などで取り扱っている。四六判で215ページ。1500円(税別)。(問)言視舎03.3234.5997。

開店前の仕込みをしながらまちづくり談義に花を咲かせる神田さん(左)と桑原さん
桑原さんの著書「宇都宮『街力』を掘り起こせ!」

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