漬物でも、焼いても炒めても「おいしい」 9年越し、ナスの新品種を開発

「かな紫」の生育状況を確かめる小泉明嗣主任研究員=平塚市上吉沢の県農業技術センター

 県農業技術センター(平塚市上吉沢)が水ナスの新品種「かな紫(むらさき)」を開発した。果汁が豊かで、浅漬けをはじめさまざまな調理法に適していることに加え、葉やへたにナス特有のとげがないのが特長。生育不良の「空洞果」も少ないとされ、生産者にとってもメリットが多い。先行開発した品種を元に交配を重ね、試行錯誤の末に9年越しでたどり着いた。同センターは「安定的に栽培できる環境を整え、神奈川を代表するブランドに育てたい」と意気込む。

 「かな紫」は2月末に農林水産省に品種登録を出願し、6月に出願公表された。

 同センターは野菜や果物などオリジナル品種の育成に取り組んでおり、ナスについては2009年3月に「サカタのタネ」と共同開発した生のままサラダで食べられる「サラダ紫」が品種登録された。

 ジューシーでサクサクした食感に加え、果肉の色が変色しにくい「サラダ紫」の特長を受け継ぎつつ、栽培時の支障となるとげがなく、空洞果も少ない新品種を求める声が生産現場から上がり、14年度から開発を進めていた。

 「サラダ紫」の親系統と市販の品種を交配し、育成期間を大幅に短縮できる「半数体育種法」で研究を重ねた結果、最適な交配の組み合わせを確立。21年度に横浜、横須賀、伊勢原市で栽培試験を実施し、生産者からも好評を得た。

 「かな紫」は強く握ると果汁が滴り落ち、漬物にすると渋味がなく、甘味やうま味が際立つという。

 開発で中心的な役割を果たした同センター野菜作物研究課の小泉明嗣(あきつぐ)主任研究員(39)は「形は巾着形で愛らしく、漬物はもちろん焼いても炒めてもおいしい。調理法が幅広いナスの魅力を体現する品種」と推奨。「とげがないので栽培しやすく、空洞果による生産上のロスも軽減できる」と話す。開発までには幾通りもの交配を重ね、刺さると抜けにくいとげにも悩まされてきた。それだけに品種登録は「感慨深い」と笑顔を見せる。

 今後は県種苗協同組合と連携し、かな紫の種苗の生産現場への導入を進める。収穫期は6~10月で、小泉研究員は「栽培のしやすさを多くの生産者に実感してもらうことが大切。安定栽培と、認知度を高める努力を並行して進め、早期にかな紫が食卓を彩ることを目指したい」と今後を見据える。

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