学生向け住居への投資ブーム来る

中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・学生向けの住居やホテルなどレジャー関連施設への投資がブ ームとなっている。

・米国では住居費を含む生活費の高騰が続き、学生ホームレスが増えつつある。

・プライベート・エクイティ企業の学生向け住居関連投資は今年、すでに203億ドルを超えている。

学生向けの住居(student & college housing)やホテルなどレジャー関連施設への投資がブ ームとなっている。

米国の大手投資ファンドであるブラックストーン・グループが4月、学 生向け居住物件の取得・新規開発物件の賃貸・管理などを行うアメリカン・キャンパス・コ ミュニティーズを、この分野では過去最高額となる 128 億ドル(約 1 兆 7020 億円)で買収 することで合意。

シンガポールの外貨準備を運用している政府系ファンドの GIC は今春、 合弁会社を設立し、保有ベッド数が 2 万 3000 を超える英ストゥーデント・ルースト(Student Roost)買収で合意。GIC はまたオランダの年金ファンドとも提携し、欧州の主要都市で学生向けホテルを所有・運営しているザ・ステューデント・ホテル(TSH)に 21億ユーロ(約 2,900 億円)の資本参加、とこの分野に踊り出た。

米国での動きには住居費を含む生活費の高騰が続き、学生ホームレスが増えつつあり、州政府・連邦政府の対応を求める声が高まっていることが背景にある。欧州の動きは旺盛な学生向け需要を見込んだものだ。

米カリフォルニア州政府の立法分析局は 2022/2023年会計年度(2022 年 7 月/2023 年 6 月)向けのレポートの中で、学生寮など大学生向けハウジング・プログラムにおいて、カリフォルニア大学バークレー校、カリフォルア大学ロスアンゼルス校(UCLA)など同州の公立大学の最高レベルであるカリフォルニア大学システム(UC)ではすべての大学が同プログラムを有し、学部学生向けでは州全体の 37%を占めたが、同じくすべてが同プログラムを持つカリフォルニア州立大学システム (CSU)ではそのシェアは 15%程度、コミュニティ・カレッジ・システムにいたっては 1% 以下と指摘している。学内での生活費(住居費と食費)は、UC キャンパスで平均 1 万 7259 ドル(サンディエゴ校で 1 万 6145 ドル、バークレー校で 2 万 236 ドル)との学生調査データも示している。

UCLA は「危機に瀕する州―カリフォルニア州の学生ホームレスからの脱却」と題するレポートの中で、ホームレス経験者はK-12 (幼稚園から高校卒業まで)の26万9000人、CSUの学生の10人に一人、UCの学生の 20人に一人に及ぶとしている。

カリフォルニア州政府立法分析局は、州政府が 2021/2022年度から3年間で総額20億ドル投資する学生ハウジング改善計画に言及しつつ、助成金の付与をすべきとしている。

ブラックストーン・グループの今年 3 月末の不動産の運用資産残高は、同社のサイト情報によると 2,980億ドル。128億ドルのアメリカン・キャンパス・コミュニティーズ買収は、同グループがキャンパス内外の学生向け住居の所有・賃貸、新規物件の開発を有望視している証左だ。アメリカン・キャンパス・コミュニティーズのポートフォリオには UCバークレー校、アリゾナ州立大、フロリダ州立大など70を超える大学物件が含まれているようだ。ベンチャー・キャピタル、プライベート・エクイティなどのグローバル動向に関する情報を提供している米ピッチブックのデータによると、プライベート・エクイティ企業の学生向け住居関連投資は今年、すでに203億ドルを超えているという。

GIC の Student Roost買収での合弁相手は、レンタル・ハウスでグローバル展開しているグレイスター・リアル・エステイト・パートナーズ。Student Roost は英国の大学立地都市にさらに3000ベッドを増床する計画を進めている。買収は2022年第3四半期に完了予定と いう。

GICとオランダの年金ファンドであるAPGと組んで資本参加する TSH は、チャーリー・マックグレガー氏が2012年に設立した企業。2年後に、エアモント・キャピタル(Aermont Capital)が参画した。TSH は GIC とAPGの資本参加を得て、現在の25ホテル保有から欧州主要都市にさらに25ホテルを増設する。GICの不動産部門の最高投資責任者であるリ ー・コックスン氏は「この投資はすぐに長期利益を生むと確信している」と自信を示す。

GIC は今年2月にプリンスホテルが保有するホテル・スキー場・ゴルフ場など 31件について子会社を通じて買収し、運営・管理は西武ホールディングスの子会社に委託することで基本協定を締結している。GIC の不動産投資はグローバルを睨んでのもの。この 7月27日発表の 2021/2022年度年次報告で不動産投資の強化方針を表明し、新分野としてデータセンター、ライフサイエンス・医療関連施設をあげ、プライベー ト・ファンドとの連携強化に意欲を示している。機を見るに敏な GIC の面目躍如といえる。

写真:学生寮の劣悪な状態に抗議してテントを張る大学生。 2021 年 10 月 25 日 米国・ワシントン DC のハワード大学

出典:Photo by Drew Angerer/Getty Images

© 株式会社安倍宏行