国立公園の外ならやりたい放題? 世界自然遺産の島で希少種の持ち出しが後を絶たない 奄美

昆虫採取のわながないか警戒するパトロール員=6月24日、徳之島

 2021年度、奄美空港(鹿児島県奄美市笠利)で13件の生物の持ち出し事案が起きた。種の保存法や自治体の条例が採種・捕獲を禁じる対象ではなかったが、準絶滅危惧種シリケンイモリが7月と3月に各約200匹、3月にはアオガエル68匹が搬出された。

 環境省の田口知宏・国立公園管理官は「規制対象外の生き物でも大量に持ち出しが続けば、生息場所が減るといった悪影響が考えられる。監視カメラやパトロールを強化したい」と話す。ただ現状では、国立公園内で捕られたものでなければ、持ち出しを禁じる手だてはない。

■氷山の一角

 鹿児島県警によると、アマミイシカワガエルなど希少種の違法採取容疑で、東京のペットショップ店長ら男2人が19年に逮捕されて以降、奄美大島と徳之島の密猟・盗掘での摘発は同件を含めて5件8人に過ぎない。一方、国立公園内に無許可で仕掛けられた違法な昆虫トラップは昨年が13件、今年も7月15日までに4件見つかった。

 密猟で表面化しているのは「氷山の一角」とみる関係者が少なくない。機内へ持ち込む手荷物、貨物を検査する空港に比べ、海路は“抜け穴”ともされ、違法持ち出しの恐れが常にある。

 さらに懸念されるのは、国立公園の近くながら規制がない道路沿いや民有地で、昆虫用のわなが大量に見つかっていることだ。徳之島では梅雨明け以降、ほぼ毎週末に発見される。7月初旬の数日間で、果物をストッキングでつるしたわなが40個以上も見つかった。

 徳之島地区自然保護協議会の美延治郷さん(66)は「国立公園外のわなにも、捕獲が禁止されるアマミシカクワガタなどが集まっているのを見た。だが『規制のない種だけを選んで捕っている』と言われればそれまで。密猟の懸念は拭い去れないのに」と訴える。

■パトロール時間外

 わなを設置する時間帯は、パトロール時間外が狙われる。放置されたままのわなは悪臭を放ち、景観も損なう。神聖な場所とされる伊仙町検福の拝所(おがんどころ)の入り口にも7月初旬、仕掛けられていたという。

 町は今月8日、町が管理する道路や土地へのわな設置の事前届け出制を始めた。申請がない場合、撤去する。美延さんは「徳之島町、天城町でもわなが見つかっており、油断できない。島内3町で足並みをそろえ、効力のある対策にしてほしい」と注文する。

 自然写真家の常田守さん(69)=奄美市名瀬=は、生物の採取場所を追跡できず、水際対策が難しい現状を問題視する。「条例で持ち出しを全面禁止とし、摘発数を増やすべきだ」と指摘した。

(連載「登録1年の現在地 奄美・徳之島世界自然遺産」より)

バナナを入れた昆虫捕獲用のトラップに集まるクワガタ
奄美空港から持ち出されたシリケンイモリ(提供写真)

© 株式会社南日本新聞社