ミャンマー問題でASEAN方針見直し

大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・ASEANではミャンマー軍事政権に対して、さらなる圧力をかけるか、ASEANからの追放といった強硬手段に踏み切るべきとの議論が起きている。

・クーデターで民主政府を倒し、スー・チーさんらを即日拘束した直後から平和的解決の道を模索。

議長声明としてASEANが提示した「5項目の合意」の呪縛。

東南アジア諸国連合(ASEAN)ミャンマー軍事政権が調停の動きに一切応じない頑なな態度を示していることから、これまでの和平の動きを促す調停という方針を見直し、さらなる圧力をかけるか、場合によってはASEANからの追放といった強硬手段に踏み切るべきとの議論が起きている

こうしたミャンマーの軍政に対してASEAN内で最も強い態度で臨んでいるのがマレーシアで、サイフディン・アブドゥッラー・マレーシア外相は7月29日、インターネット上のSNSに「今日までミャンマー軍政はASEANの和平プロセスを無視し、暴力行為を続け、それは悪化の一途をたどっている。ASEAN各国は11月に開催予定の首脳会議では、重大な決断をしなければならなくなるだろう」と書き込んで、ASEANによるミャンマー問題の現状の扱いに深い落胆と同時に憤りを示した。

これは7月23日にミャンマー軍政が反軍政の立場から民主派の活動を続けた民主政府の国会議員だったピョ・ザヤル・ゾー氏(41歳)と著名な民主化運動の活動家チョウ・ミン・ユー(愛称コー・ジミー、63歳)氏ら4人に対する死刑を執行したことと無関係ではなく、ASEANの今年の議長国であるカンボジアのフンセン首相が死刑執行の中止を軍政トップのミン・アウン・フライン国軍司令官に書簡で申し入れたにも関わらず無視されて執行が行われた。これはすでにASEANのミャンマー軍政に与える影響力が実質的になくなっていることを示している

ASEANの調停努力

ASEANは2021年2月1日の軍政によるクーデターアウン・サン・スー・チーさんが率いる民主政府を倒し、スー・チーさんらを即日拘束した直後から平和的解決の道を模索し始めた

欧米による非難と制裁とは一線を画したミャンマーも加盟する地域連合体としてなんとか解決の糸口を見つけようとしてきた。

ミャンマーやその後ろ盾である中国への配慮からミャンマー軍政に強硬に出られないカンボジア、ラオス、同じ軍政のタイに比べ、マレーシア、インドネシア、シンガポールなどは軍政を厳しく非難すると同時に調停での和平解決を進めた。

最初に動いたのはインドネシアで、2021年4月にASEAN緊急首脳会議を首都ジャカルタで開き、軍政のミン・アウン・フライン国軍司令官を首脳会議の場に呼んで各国首脳らと直接面談する形での協議を実現させた。

この首脳会議ではスー・チーさんの即時釈放というASEANの要求はミン・アウン・フライン国軍司令官の反対で実現しなかった。

首脳会議での「5項目合意」が呪縛に

しかし議長声明としてASEANが提示した「5項目の合意」にはミャンマーも合意し、以降のASEANによるミャンマー問題の鮎貝はこの「5項目の合意」が基本原則として進められることになった。

その「5項目」とは①市民を標的にした武力行使の即時停止②関係者全員の建設的な話し合い③ASEAN特使の派遣で仲介を進めること④人道支援を受け入れること⑤ASEAN使と関係者全員と面会すること、となっている。

緊急首脳会議を主導したインドネシアのジョコ・ウィドド大統領やレトノ・マルスディ外相らは「会議は成功」だったと評価した。クーデター以降、ミン・アウン・フライン国軍司令官の初めての外遊となった首脳会議で直接意見を交わすことができたことは確かに成功といえるだろうが、その後の展開を見る限り果たして成功と評価できるのかはなはだ疑問となっているのが現状だ。

ミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍政幹部はASEAN議長国のカンボジアのフンセン首相やASEAN特使となったカンボジアのプラク・ソコン外相とは面会するものの「5項目の合意」の中の「武力行使の即時停止」は「武装市民からの攻撃が止まない以上武力行使停止はできない」と弁明し、「全ての関係者との面会」に関しても「スー・チーさん以下訴追されて裁判の被告となっている人物との面会を認める国などない」として断固として拒否しているのだ。

この行き詰まりを打開するために、ASEANとして新たなアプローチを模索する動きがマレーシアを中心に始まっており、その最初の協議が7月3日にカンボジアで開催されるASEAN外相会議になるだろう。同外相会議にはミャンマーの軍政外相は招待されていない。

トップ写真:ミャンマーの政治犯の釈放を要求するデモ隊(2021年4月24日 インドネシア・ジャカルタ) 出典:Photo by Ed Wray/Getty Images

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