岐阜県の野外水域における「第3の外来種」観賞魚メダカの初記録

人工改良品種である観賞魚の野外放流による在来生物への悪影響を懸念

岐阜県の野外水域における「第3の外来種」観賞魚メダカの初記録

採集された個体は、市場価値の低い特徴も観察されたため、
育種選抜時に不要となって野外に遺棄された個体であると推測
人工改良品種である観賞魚の野外放流による在来生物への悪影響を懸念

本件のポイント

2021年 11月に岐阜県美濃市の用水路から採取したメダカ類の形態的特徴を観察したところ、一部の個体は、鑑賞メダカとして人気の高い幹之(みゆき)メダカと特定
近年、キンギョやニシキゴイ、ヒメダカといった人工改良品種に関して、野外への放流による在来生物への悪影響が懸念されるなか、安易な放流に警鐘を鳴らす論文を発表

本件の概要

龍谷大学 生物多様性科学研究センター①)の伊藤 玄客員研究員は、世界淡水魚園水族館の堀江真子氏とともに、2021年 11月に岐阜県美濃市の用水路から採取したメダカ類の形態的特徴を観察したところ、一部の個体を、鑑賞メダカとして人気の高い幹之(みゆき)メダカ②)と特定しました。近年よく流通している鑑賞魚メダカの野外での確認は、全国的にも例が少なく、岐阜県では初めてとなります。
特に標本に基づいた記録は現在までに2件しかありません。研究成果としてまとめた論文は、全国的な平野部の湿地環境について広く掲載し、かつ、外来種問題について取り上げることも多い「伊豆沼・内沼研究報告」③)Vo.16(2022)に投稿・掲載されました。
近年、キンギョやニシキゴイ、ヒメダカといった人工改良品種に関して、野外への放流による在来生物への悪影響が懸念されており、このような人工改良品種を「第3の外来種」と呼称することも提唱されています。今回確認された観賞魚メダカは、人為的に放流されたものと考えられ、在来種であるミナミメダカと交雑してしまうおそれがあります。「観賞魚の安易な放流は厳に慎まなければならい」という認識を高める上で、重要な論文です。

1.発表論文(和文)

標 題:岐阜県の野外水域における体外光メダカ(幹之メダカ)などの
観賞魚メダカの標本にもとづく初記録
著者名:堀江真子1・伊藤 玄 2,3
所 属:1世界淡水魚園水族館, 2龍谷大学生物多様性科学研究センター,3岐阜大学教育学部
雑誌名:「伊豆沼・内沼研究報告」 Vo.16(2022)p.61- p.70
U R L :https://doi.org/10.20745/izu.16.0_63
2022年7月31日(日)Web掲載

2.用語解説

① 龍谷大学 生物多様性科学研究センター
生物多様性科学研究センターは、これまで、生物種の検出のみならず、種内の遺伝的多様性も「水から」の分析を可能にしてきました。近年では種の存在のみならず「生物の状態」まで知ることを狙い、環境RNA分析も開始したことで、総合的な「環境核酸分析」へ発展しつつあります。これによりDNAだけではわからない、繁殖活動や病原菌への感染といった情報まで得られるようになると期待されます。本学の研究グループは世界的にも最古参に近く、現在世界をリードする研究を推し進めています。

② 幹之(みゆき)メダカ
写真は、岐阜県美濃市で採集された観賞魚メダカを含むメダカ類(9品種に分類)。採集された 74 個体のメダカ類のうち、野生メダカと同様の形質を持つ茶メダカは 21 個体のみで、残る 53 個体のうち 24 個体は体外光を持つ個体(以下、体外光メダカ類)でした。この体外光メダカ類 は、幹之メダカというニックネームでも知られており、2007 年に作出されて以降、様々な品種の誕生に関 わったとされる代表的な観賞魚メダカ品種です。

③ 伊豆沼・内沼研究報告
宮城県にあるラムサール条約登録湿地、伊豆沼・内沼を中心とした平野部の湿地に関する調査研究の成果を掲載し、日本の湿地生態系の将来にわたる保全対策の礎となることを目的とした研究報告書。公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団が発行しています。
http://izunuma.org/5_2.html

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