女優が歌うシティポップ 〜 萬田久子、白石まるみ、田中好子、鷲尾いさ子、高橋ひとみ  大好評の「マスターピース・コレクション~CITY POP名作選」で実感したい “歌う女優” のスペシャル感

スペシャル感ある“歌う女優”という存在

これまでにも事ある毎に唱え続けてきたのだが、女優の歌というのはかなり特別なものである。“歌う女優” という呼び方が一般的だった昭和30~40年代までは、美空ひばりや吉永小百合のように、俳優業と歌手業を程よい比重でこなすスターは多かったが、ごく一部を除いて、次第に女優は女優、歌手は歌手という棲み分けが明確になっていった気がする。

だから80年代における映画界のスター、薬師丸ひろ子や原田知世は歌手としても多くの実績がありながら、松田聖子や中森明菜らのアイドルと同じ視点では語れない。やはりスペシャル感があるのだ。

大好評「フィーメル・シティポップ名作選」に加わったアイドル&俳優路線

人気と話題が定着しているシティポップのリイシュー盤は後をたたない。中でも特に好評を得ているビクターの『シティポップ名作選』シリーズに、アイドル&俳優路線が新たに参戦してきた。題して「フィーメル・シティポップ名作選」。

桜田淳子や石野真子らの正統派アイドルのアルバムがピックアップされた一方で、10タイトルのうち5タイトルが本業が女優のアルバムという興味深いセレクションになっている。

萬田久子、大人っぽい本格派のアルバム「夏の別れ」

年代順に追ってみると、まずは1981年の萬田久子『夏の別れ』から。同名の主演映画のイメージアルバムだった。同年に公開された加山雄三主演映画『帰ってきた若大将』で、田中邦衛の秘書役を溌剌と演じていたのが印象深い。

なんといっても、歌声がまだ初々しいが楽曲はみな大人っぽく本格派。DJ NOTOYAのセレクトで話題になった「恋するつもりになれば」が収録されており、今回のラインナップにはすぐに挙げられたものとおぼしい。「愛のオーロラ」はシングルもリリースされていた。

白石まるみ唯一のアルバム「風のスクリーン」松任谷正隆プロデュース

白石まるみ『風のスクリーン』は1982年リリース。ユーミンが呉田軽穂名義で作詞を手がけたデビュー曲「オリオン座のむこう」をはじめ、サードシングルの「恋人達の明日」(今回はボーナストラックとして収録)は大貫妙子の作詞・作曲だった。

松任谷正隆のプロデュースによる、彼女の唯一のアルバムはたおやかな歌声に癒される。歌手のイメージも強いが、TBSのテレビドラマ『ムー一族』で郷ひろみの恋人役のオーディションで選ばれた経緯がある。

田中好子「好子」キャンディーズ時代とは違う魅力を発揮

キャンディーズ解散後、ソロ活動に転じた田中好子は女優としての復帰であったが、歌声も聴かせてくれてファンを喜ばせた。それが唯一のソロアルバムとなった1984年の『好子』だった。作家陣には来生姉弟や丸山圭子、梅垣達志らの名前が並ぶ。

アルバムのラストを飾る「Feel My Love Inside」は丸山の作詞・作曲による大人のラブソングで、キャンディーズ時代とはまた違った魅力が発揮されていた。「カボシャール」はシングルカットされたものとは異なるアルバムヴァージョン。

鷲尾いさ子「彼女の風 / 20才のデリカシー」フレンチポップのカヴァーに挑戦

「鉄骨飲料」のCMがすっかり代名詞のようになってしまった鷲尾いさ子だが、記憶に残るフィルムが多々ある。新人賞を獲った大林宣彦監督の『野ゆき山ゆき海べゆき』(1986年)、トシちゃんの相手役に抜擢された『瀬戸内少年野球団・青春篇 最後の楽園』(1987年)での熱演も忘れられない。

今回は1987年のアルバム『彼女の風』と1990年の『20才のデリカシー』をカップリング。長身でスマートな佇まいを象徴するかのように、フランス・ギャルやカトリーヌ・スパークなどフレンチポップのカヴァーに挑戦しており、オリジナルも含めてアンニュイで個性的なキャラが絶妙に活かされている。

高橋ひとみ「カラフル」鳥山雄司プロデュースのシティポップ

高橋ひとみ『カラフル』は、今回のラインナップでは最も新しい1991年の作。タイトルに相応しくヴァラエティに富んだ賑やかなアルバムになっている。多彩で味わい深い女優である本人のキャラクターも反映されているのだろう。

既にJ-POPの時代に突入しているが、鳥山雄司プロデュースによる洗練されたサウンドは正にシティポップ。その路線を担っていた崎谷健次郎や安部恭宏らが楽曲提供しているのも聴きどころ。

多岐川裕美や宮崎美子作品もぜひ!

アイドルや女優の音源を豊富に有するビクターには、このシリーズにラインナップされて然るべきアルバムがまだまだあるはずだ。女優では、多岐川裕美や宮崎美子など、過去に一度CD化されたものでも改めてシリーズに収めてもらいたい。

シティポップブームの受け止め方は人によって様々であろうが、こうしたアルバムたちに再びスポットが当たるなら大歓迎である。サブスクもいいけど、昭和の音楽はやはり形あるもので聴きたいのですよ。

カタリベ: 鈴木啓之

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