ジョニー・デップが伝説の未解決事件を追う!『L.A.コールドケース』 警察の腐敗と遺族の無念を突きつける激渋サスペンス

『L.A.コールドケース』© 2018 Good Films Enterprises, LLC.

ジョニデが実在の刑事を熱演

1996年9月から翌1997年の3月にかけて、2人の伝説的ラッパーが何者かによって殺害された。西海岸の2Pacと東海岸のノトーリアス・B.I.G.。生き馬の目を抜くヒップホップ業界で起こった最悪の悲劇として知られているが、彼らの死後に多数製作された犯罪特番やドキュメンタリー作品などによって、今では単なる東西抗争の結果ではないという説が浸透している。

2022年8月5日(金)より公開の『L.A.コールドケース』は同事件の実際の捜査に基づく物語だが、ジョニー・デップとフォレスト・ウィテカー共演のバディもの、ではない。ランドール・サリヴァンによるノンフィクションをベースに、いまだ未解決である謎多き事件の「なぜ? 誰が?」を追い続けた刑事と記者、そして息子の早すぎる死を受け入れざるを得なかった母親の、今なお続く長い戦いを真摯に描いたクライム・サスペンスである。

ヒップホップに興味がなくても問題なし

ジョニデが演じるのは当時、ノトーリアス・B.I.G.=ビギーことクリストファー・ウォレス24歳の殺害事件を担当した刑事ラッセル・プール。ウィテカーが演じるのは、かつて自身が記事化した同事件の回顧録のため、すでに引退したプールに取材を仕掛けるジャーナリスト、ジャック・ジャクソン(※サリヴァンをモデルにした架空の人物)。

これまで散々ほじくり返されてきた事件だけに実話部分のディティールは凄まじく、関係者や容疑者たちの氏名はもちろん乗っていた車まで完全に再現していて、そのおかげで00年代前後の空気が自然と醸し出されている。

少々ベタな選曲を含め、90年代の映画を観ているような錯覚に陥る冒頭から、いわゆるMTV世代であれば早々に心を掴まれるだろう。ヒップホップにビタイチ興味がなくても問題なく楽しめるが、もしラッパー2人のキャリアや関係性についてしっかり準備しておきたければ、『誰が2PACを殺したか? 殺害事件の真実』(2017年)や『ノトーリアス・B.I.G. -伝えたいこと-』(2021年)、『Unsolved: 未解決ファイルを開いて』(2018年~)など今すぐ配信で観られる関連作品があるので、ざっと予習しておいてもいいだろう。

メディアや野次馬の煽りもあって「ギャングの抗争」「野蛮なラッパー同士の殺し合い」などと語られてしまうこともあるこの事件を、「才能あふれる2人の若者の不可解な死」として改めて歴史に刻み込もうという志が感じられる本作。

それはビギーの母のコメントを度々挿入するところからもうかがえるが、重要なのは“もう終わった話”ではないということだ。これは2022年現在も起こっている様々な不条理や悲劇と地続きの事件であり、法の番人であるはずの警察組織の腐敗を突きつける。

驚き&納得のキャスティング

監督は『リンカーン弁護士』(2011年)や『潜入者』(2015年)で知られるブラッド・ファーマン。スキャンダラスな事件がベースではあるものの、組織の腐敗や遺族の葛藤など真に描きたい題材を中心に据える硬派な構成は今回も冴えている。ジョニデ&ウィテカーの、終始お腹が痛いのを我慢しているような涙目演技は過剰にエモいが、本作ではプラスに作用しているので結果オーライだ。

また、『炎のデスポリス』(2021年)でサイコパスの暗殺者を演じているトビー・ハスがプールの元相棒役で出演しているのだが、情報屋のチンピラをサイコ呼ばわりしていて思わずニヤリ。

他にもピーター・グリーンやケヴィン・チャップマンなど、サスペンス映画/ドラマ好きにはお馴染みの中堅俳優たちも顔を見せているので要チェック。そして本作が決して実在事件ごっつぁん映画でないことは、ビギーの母ヴォレッタ・ウォレスが自身の役を演じるという驚きのキャスティングからも明らかだろう。

『L.A.コールドケース』は2022年8月5日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開

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