飼い猫か、野良猫か、ノネコか…世界遺産の島で増える猫、希少種の被害が無くならない 背景には集落の悪習が 奄美

森に近い集落の野外で暮らすネコ=6月24日、徳之島町轟木

 「ほらあそこ。5匹もいる」。鹿児島県徳之島町轟木を車で走っていると、認定エコツアーガイド美延優志さん(31)が道路脇を指さした。寄り添う子猫の耳には、桜の花びらのようなV字の形をした不妊・去勢手術済みの印がない。「近くに希少な生き物が多くすむのに、これでは猫が増える一方」と憤る。

 徳之島では、放し飼いの猫か集落近辺の野良猫、野生化した猫(ノネコ)によるとみられる希少種の捕殺被害が後を絶たない。2021年に見つかった国指定特別天然記念物アマミノクロウサギの死骸47体のうち、10体は犬か猫による被害だった。

 国指定天然記念物のケナガネズミとトクノシマトゲネズミの割合はもっと多い。トゲネズミは一晩で7匹も殺された例があった。自然保護活動に取り組むNPO法人「徳之島虹の会」事務局長の美延睦美さん(59)は「徳之島最大の課題は猫対策」と強調する。

■いたちごっこ

 徳之島では15年12月、奄美大島に先駆けてノネコの捕獲が始まった。14年時点での推定生息数は150~200匹。22年3月までにそれを大きく上回る522匹を捕獲したものの、希少種の捕殺被害が収まっていない。

 森林総合研究所(茨城県つくば市)の研究では、普段集落でキャットフードを食べている猫が、森で希少種も捕食していることが分かっている。

 環境省徳之島管理官事務所国立公園管理官の福井俊介さん(28)は「集落の猫の流入が続いていると考えられる。室内飼いなど適正に飼育されていないケースが多い。いたちごっこだ」と話す。

■悪習慣と決別を

 背景には、猫飼育を巡る集落間の温度差がある。天城町当部集落はクロウサギが民家の庭先に現れるほど多い。10年ほど前に自主ルールを作った。猫の飼育自粛や室内管理を徹底。外飼いをする世帯が転入を望む場合は遠慮するよう求める。現在約40世帯が暮らし、室内も含め猫を飼う世帯はない。

 希少生物保護に取り組む地元のNPO法人「クロウサギの里」理事長の松村博光さん(75)は「人と希少種の共生にはルールが必要。住民の理解も年々進んだ」と話す。一方、他集落では「生き物は外で飼うもの」との認識があり、希少種が近くにすんでいても放し飼いするケースが多いと指摘。「悪い習慣との決別が必要」と嘆く。

 徳之島3町は7月、適正飼育に関する改正条例を施行した。島内での飼い猫へのマイクロチップ装着や室内飼育を義務化。野外にいる猫への餌やり、多頭飼いを禁止した。徳之島3町ネコ対策協議会事務局の宮田鷹さん(33)は「周知を徹底し、違反があれば指導する」と警告した。

捕殺されたとみられるアマミノクロウサギの死骸を囲む環境省職員ら=徳之島町母間

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