<社説>首相、NPT会議で演説 「橋渡し役」物足りない

 国際社会は重要な局面に立っている。核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開幕した。26日まで約4週間の会議で「核のない世界」への取り組みを示す最終文書を採択できるかが最大の焦点だ。 唯一の戦争被爆国の日本は核保有国と非保有国の「橋渡し役」として、これまでにない役割を期待されている。これに応えなければならない。

 岸田文雄首相は日本の歴代首相として初めて会議に出席し、演説した。核兵器不使用の継続など5本柱からなる行動計画を提唱した。

 ただ、核兵器を非合法化する核兵器禁止条約に言及しないなど、橋渡し役を務めるには物足りないと言わざるを得ない。自民党内には「核共有」の議論を認める発言がある。首相の姿勢も問われる。

 演説で掲げた核戦力の透明性向上といった行動計画をどのように実現していくのか、具体性も欠いた。実現は本当に可能だろうか。

 日本がまずやらなければならないことは、核廃絶に向けた姿勢を国際社会に示すことではないのか。

 まずは核兵器禁止条約への参加である。条約は昨年1月に発効したが、日本は批准していない。ことし6月の第1回締約国会議については、オブザーバーとしての参加をも見送った。被爆者らから批判が噴出した。

 核禁条約を巡っては、日本世論調査会が実施した平和に関する全国世論調査で61%が

「参加するべきだ」と回答した。

 前年よりも10ポイント減少したものの、依然として高い傾向だ。参加を求める理由として多かったのは「唯一の戦争被爆国だから」だった。国民は被爆国の使命として核廃絶への

リーダーシップを求めている。

 保有国と非保有国との間の溝を埋める交渉は難航が予想されている。ウクライナ侵攻でロシアが核の威嚇を持ち出し、中国が核戦力を増強。核兵器が使用されるリスクは冷戦時代以降、最も高まっているとの指摘もある。

 国内には米国との核共有論も出てきた。「持ち込ませず」という非核三原則の一つを否定するものである。自民党内には非核三原則の見直し議論を容認する発言もある。核共有は核の不拡散を求める国際的な潮流に逆行する。岸田首相がいくら行動計画を示そうとも、説得力はない。首相はこうした無責任な足元の風潮を戒めるべきだ。

 今こそ、日本国憲法の国際協調主義を基にした自主外交の展開が求められている。

 外交努力で日本の平和主義をより強靱(きょうじん)なものとしていくことは平和憲法のうたう、国際社会の中で名誉ある地位にもかなうはずだ。ドイツは核禁条約の締約国会議にオブザーバー参加し、各国間の架け橋として存在感を示した。

 日米安全保障体制を維持していくのであれば、核保有国の米国に強く働きかけ、核廃絶へと導いていくのも「同盟国」の役割だろう。

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