ロシア金融制裁の影響とこれから日銀はどう変わるのか マネックス証券・大槻奈那専門役員チーフ・アナリスト ロシア侵攻が何をもたらしたのか 建築費と金融政策のシナリオを見る(下) 

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって4カ月(6月25日時点)。不動産金融市場にとって不透明な状況が続いている。建築費はどうなるのか、金融政策はどこへ向かうのか。不動産経済研究所は、「ロシア侵攻が変えた世界」と題したセミナーを開催した。経済・金融の大変調、今後をどう生き抜くかについて、建築、金融など各界から4名が登壇し、足元と今後の見通しなどを語った。セミナーの概要を紹介する。

ロシア侵攻が何をもたらしたのか 建築費と金融政策のシナリオを見る(上)より続

金融政策の行方と今後の見通し

構造転換と短期的ブームの見極めが必要

「ロシア金融制裁の影響とこれから日銀はどう変わるのか」と題して、マネックス証券の大槻奈那専門役員チーフ・アナリストが講演。
金融政策については、足元で消費者物価指数の見通しは大きく上昇している。しかしこれで済まないと思っている。生産者物価指数、企業物価指数の問題だ。今まで日本の消費者物価指数は、需要が弱い、企業が価格引き上げの売り上げへの懸念が強い、中小企業が多いので企業間の競争が激しい、賃上げが相対的にスロー、家賃の上昇率が低い、一部で政府の価格コントロールが効いている、などの理由で他国と比べて低かった。しかし今回は、最初の2つが今までより物価を押し上げる方向に作用し得るのではないか。物価は上昇するだろう。今の物価上昇は、供給制約により物価が押し上げられている。しかし今後は、需要の回復が大いに見込める。そうであるならば金利上昇は本当に日本で無いのか。政策金利については、向こう1年間はないのが結論だが、市場は来年の今頃は政策金利がプラスになる見方をし始めている。また最近の特徴として、外国人投資家が持っている国債の保有比率が、全体に対して10%程度だが、日銀が買っているもの以外、民間に占める外国人の保有比率は約25%程度に高まっている。だから、何らかの形で金利が上がり始める兆候が出た場合は、外国人は意外とアクティブにそこに乗って、金利が上がる方向になるかもしれない。
ウクライナ問題を受けて、どんな金融政策変更が考えうるのか。結論としては、当面は大きな変化はない。しかし、他国が大きく変化する中では、動きがないことが“相対的な激変”と言えるかもしれない。
過去、日本の金融政策は欧米と方向性が一致しており、欧米の金利が上がれば時期がずれたとしても1年以内に遅れて追随していた。したがって、10年国債の利回りは上がらない方向になっているが、何らかの形で修正されるかもしれない。需要も上がってきて、物価が上昇し、景気がある程度過熱気味になって物の値段が上がるのであれば、物価の安定を目途とする日銀としても動かざるを得ない。その場合、金利はどれくらいかとシミュレーションすると、実はあまり高くならない。元々の日米の金利差からシミュレーションすると、0.6%程度。だとすると、むしろ、金利が少しだけ正常化し、結果として為替が130円前後で落ち着いた場合は、日本の資産マーケットには非常にプラスだと思っている。去年から今年にかけて、ドル円レートは12~13%程度円安ドル高になった。つまりこれ以上円安が進まないと見る投資家であれば、不動産なり資産価格は今は非常に安く思える。しかも、金利が動かない。銀行は個人の収益物件投資に対しては厳しくても、実業を持つ機関投資家や企業に対してはその限りではない。円でレバレッジがかけられる状況にあり、これ以上あまり行き過ぎたドル円レートにならないと想定するなら、日本以外からの投資家にとっては極めて良い年になり得るだろう。
転換点の激動を乗り切るために、1番大切なことは、短期的なブームと構造的な変化を見極められる人が相場でも勝つと考えている。短期的なブームというのは行き過ぎということ。どこかで転換点があるはずで、これと長期的・構造的な問題を見極めることが重要だ。金利、原油価格上昇は行き過ぎ感がある。
一方で、長期的・構造的な問題は、お金の価値の低下や富に占める女性保有比率の上昇が挙げられる。女性の方が寿命が長く、富の分布をみるとじわじわと女性の方に寄ってきている。いろいろな意味で、これからは女性が、ディシジョンメーカーになると思っている。
大規模な構造変換は、稀だがゼロではない。中央の証券会社や取引所を通さない形式のプロジェクトファイナンスにも使われるNFTといった中央主権から分散型の金融システムの導入に注目したい。
今後の見通しだが、今年度も予想しずらい混乱期が続く。日本の金融政策に動きはしばらくないものの、個人的に大胆予想をするとすれば、市場が思っているよりは早く金利が動く可能性がある。なぜならば物価は意外と需要も押し上げる形で上昇してくる可能性があるからだ。

2022/6/25 不動産経済ファンドレビュー

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