《特別公開》”災害級の暑さ” 現場で命を守る熱中症対策を

災害級の暑さが、全国各地を襲っている。熱中症の危険性が極めて高まっているとして、環境省と気象庁は8月3日、「熱中症警戒アラート」を全国の合計35都道府県に発令した。炎天下の中でも、現場に立ち続ける職人に危険が迫っている。記録的な猛暑によって、死傷者が続出。総務省はきのう、全国で7月25~31日に熱中症で搬送された人が、前週より3077人多い7116人と発表した。搬送後に死亡したのは6人。命を守る熱中症対策が必須だ。

**新建ハウジングDIGITALでは、こうした状況を受けて、本紙7月10日号で特集した工務店「熱中症」特集を再編し、緊急で全文公開する。
(初出:新建ハウジングタブロイド 2022年7月10日号 所属、肩書、表現は当時のまま)**


過去5年間に熱中症で亡くなった最多職種は建設業-。

厚生労働省がこのほど公表した、職種別の「死傷災害」の状況を取りまとめた調査結果で明らかになった。

異例の早さとなった梅雨明けで厳しい暑さが本格化する中、危険と隣り合わせの炎天下でも、現場を止めることはできない。資材価格の高騰など、厳しさを増す住宅産業市場で、もしも現場で熱中症など起きてはならない“事故”が発生してしまったら、それは即、工務店の経営を左右するようなダメージにつながりかねない。職人たちの安全確保はどうしたら良いのか。

熱中症対策をからめて、いますぐに現場における安全対策を徹底的に見直し、強化を図りたい。行政、工務店、メーカーに取材し、現状と対策を追った。

入職直後の作業員、暑熱順化の配慮を

1人作業、二次災害に要注意

厚生労働省の「令和3年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」によると、2021年の死傷者と4日以上の休業を必要とする疾病者の数は561人で、このうち死亡者は20人だった。過去3年の状況と比較すると、死傷者数、死亡者数ともいずれの年よりも下回った。コロナ禍による外出自粛の影響やテレワークの定着、気候状況などが影響しているという。

2021年の死亡災害のうち、建設業は11件と全職種で最多となり、2017年~2021年の過去5年間においても、死傷者878人で、そのうち死亡46人と、全職種で最も死亡災害が多い職種となっている。

「暑さ指数」適切な運用を

厚労省労働基準局・安全衛生部の担当者によると、他の職種と比較して建設業が多いのは、労働に従事する労働者の母数が多いことが影響しているという。そのうえで同担当は建設業における労働災害について、「入職直後で現場に慣れていないことや、夏季休暇明けで明らかに暑熱順化していないケースなどがあった。熱中症の危険度を判断するWBGT(湿球黒球温度)=暑さ指数が適切に運用されておらず、一部で基準値に応じた措置が講じられていない事例もある」と指摘する。

体調不良を訴え、休憩させた際に周囲の目が行き届かず、気づいたときには容態が急激に悪化していたり、1人作業をしていて倒れているところを発見されたりと、熱中症発症から救急搬送までに時間がかかっていると考えられる事例も報告されている。

熱中症の発症が、二次災害の発生につながる事例もある。熱中症により意識を失って転倒し、頭部や肩を強く打ったり、車両運転中に熱中症を発症し交通事故につながったケースもあったという。

厚労省が公表する同調査結果は、建設業における実際の現場の死傷者・死亡者数と乖離している可能性もある。労働災害の申請がなされ、認定された件数を算出している同調査は、労働基準法の「労働者」が対象範囲で、一人親方や自営業者はこれに含まれないためだ。

2017 年以降の時間帯別の死傷者数をみると、15時台が最も多く、次いで14時台が多い。日中の作業終了後に帰宅してから体調が悪化して病院へ搬送されるケースも散見された

[(https://www.s-housing.jp/archives/281993/2)

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工務店による熱中症対策事例

夏本番、工務店は現場でどのような対策をしているのか―。ヒアリングしたほぼ全ての工務店が空調ファン付きウエアを職人に支給しているほか、飲料水、市販の熱中症対策の塩飴を支給していた。糖尿病を患っている中高年の職人のために、スポーツドリンクではなく、水や麦茶も一定数用意していることも共通していた。そのほか、作業用の大型扇風機を稼働しているケースも多かった。

いつでも職人が補給できるように、事務所や各現場で大量の飲料水や氷をストック

【CASE1】一人親方労災保険の掛け金を負担

寿ホームズ[鳥取県倉吉市]

寿ホームズは、専属の職人を対象に、一人親方労災保険の5000円の掛け金を人工に上乗せして毎月支給している。対象は親方だけでなく、その子方(弟子)にまで及ぶ。同社常務の加藤晃さんは「職人が安心して働ける環境づくりをすることが家づくりの品質向上にも大きく影響している」と話す。職人をリスペクトし、パートナーとしての関係性を築くことで「評判をよび、数珠つなぎのように、実力のある職人が同クラスの職人を紹介してくれる」と手ごたえを語る。

【CASE2】ファン付きウエア着用義務化

新産住拓グループ・新産匠[熊本県熊本市]

新産住拓のグループ会社で職人が所属する新産匠は、熱中症対策の指針を策定し事故を未然に防いでいる。6月~9月までの期間はファン付きウェア着用の義務期間に設定。職人を含む現場入りする全員に対して、気温、湿度、暑さ指数などをFacebookで周知連絡する。

現場施工は、できるだけ直射日光を遮ることができる簡易な屋根を設けて行うほか、温度計や湿度計を設置し、温湿度の変化に留意し、気温条件や作業内容、職人の健康状況に気を配っている。新産住拓常務の植松豊さんは「何か特別なことをするというより、互いに声を掛け合い、健康状態を相互確認するという当たり前を徹底するのが大切。些細な変化に気付くことで、事故を未然に防ぐようにしている」と説明する。

【CASE3】ミストシャワーを順次設置

小河原建設[東京都中野区]

小河原建設は、施工現場に簡易のミストシャワーの設置を順次進めていく。水分を噴射し、それを浴びることで体感温度を下げて安らぎを与える。住宅事業部部長の池田勝樹さんは「職人の労働環境を守るのも責務の1つ。大切な仲間として、その先には家族がいることも忘れてはいけない」と語る。

【CASE4】熱中症対策キットを配布

浜松建設[長崎県諫早市]

浜松建設は数年前から、冷却スプレーや急冷タオル、塩飴など一式をそろえた「熱中症対策キット」を各現場に配布している。同社工事部の永石洸斗さんは「使用履歴一覧表で管理し、常にアイテムを切らさないように仕組み化している。現場ごとに必要に応じて経口補水液やスポーツドリンクを大量に発注するなどしている」とする。

猛烈な暑さは職人の体力を奪い、危険と隣合わせだ。直射日光を避けるために帽子を被りながら作業するほか、熱中症対策応急キットを各現場に配置し“もしも”に備える

[(https://www.s-housing.jp/archives/281993/3)

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熱中症対策に有効なアイテム

ワークマン 空調ファン付きウエア「WindCore制菌シェルベスト」

ワークマン(群馬県伊勢崎市)の空調ファン付きウエア「WindCore(ウィンドコア)制菌シェルベスト」は、ファンからの風が衣服内を循環し、涼しく快適に過ごせるのが特徴。ネイティブ柄やイエロー、レッドなど多様なデザイン展開で支持を集めている。15Vのバッテリーにより強力な風を発生させ、ウエストについたアジャスターで空気量を調整。着脱可能なフードや保冷剤を入れられる背中のポケットも付いている。同社広報部の鈴木悠耶さんは「例年7月末に販売数が伸びるところ、今年は梅雨明け前から販売数が伸びており、生産数分が早めに売り切れてしまう勢い」と話す。

昭和商会「COOLFIXアクティブベスト スターターキット」

昭和商会(愛知県名古屋市)の「COOLFIXアクティブベスト スターターキット」は、リフォーム・リノベーションなど小回りの必要な作業環境でも活躍するベスト型の冷却ウエア。背中に取り付けた3台の装置が直接、体を冷却する。外気温40℃の状態で体感気温20℃の効果を発揮するという。1回の充電で約3.5時間の冷却効果が持続する。交換バッテリーを利用すれば終日利用も可能だ。デバイスとバッテリーを装着した状態で約570gと軽量で動きやすいのも特徴。「USB接続にも対応しており、事務所やオフィスで着用することもできるので、節電対策にも活用して欲しい」(商品企画室・加藤善紀さん)

ミズケイ「エアーファンダフルベスト」

ミズケイ(岡山県倉敷市)が今年5月発売した電動ファン付きウェア「エアーファンダフル(R)ベスト」。ユニフォームメーカー、コーコス信岡(広島県福山市)のとのコラボレーション品。背中の特殊マチによる立体的な風の通路、保冷剤を入れるポケット、裾のループをベルトに固定し激しい動きにも対応できるといったコーコス信岡の「グラディエーター(R) G-6219」シリーズの機能はそのままに、ミズケイの主軸事業の一つである警備業ならではの視点をプラス。反射材を付けることで、視認性を高め安全ベストとしての機能も備えた。ファン・バッテリーはサンエス(広島県福山市)の「空調風神服」モデル。風量は3段階切り替えで、強で約4時間、中で約8時間の使用が可能。

昭和商会「ミストワークファン」

付属のバケツの上に設置して使用(写真右上)。水道直結でも使える(写真右下)

小規模な現場やプライベートにも使いやすいと、注目が高まっているというのが昭和商会(愛知県名古屋市)が今季新たに発売した、水道・電源がなくても使えるポータブルミストファン。コードレスで持ち運び可能な小型タイプで、稼働時間は充電時間2~5時間で約4~7.5時間。給水方法は水道直結式と、バケツから汲み上げるポンプ式の2種類の方式を採用。使わない時はファンを付属のバケツに収納することができる。

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