消える「みどりの窓口」、代わりの券売機「プラス」に不満続出、1時間たっても払い戻しできず結局「窓口に」 JR西日本、対策は?

JR佐用駅のみどりの窓口=1月、兵庫県佐用町

 JR西日本が、新幹線や特急列車などの券を対面販売する「みどりの窓口」の数を減らしている。代わりに設置を進めているのが、同等の機能を持つとされる「みどりの券売機プラス」だ。モニター越しにオペレーターと会話できる仕組みだが、使い勝手の悪さや待ち時間の長さから不満が続出。利用者の対応に当たる社員からも改善を求める声が上がっている。(共同通信=小林知史)

 ▽対応できず、窓口に案内

 

JR出雲市駅に設置されたみどりの券売機プラス=7月、島根県出雲市

 7月上旬、松江市の山陰線宍道駅。大阪との往復切符を払い戻そうとしていた会社員、長富優樹(31)さんが「プラス」の前で途方に暮れていた。払い戻しにはオペレーターとの会話が必要だが、会話を始めるまでの待ち時間だけで約20分。その後、オペレーターの指示に従ってクレジットカードを挿入したり、切符を機械に入れたりした。だが約40分後に「プラスでは対応しきれない」と言われ、みどりの窓口がある松江駅に出向くよう指示された。4駅先にある。
 操作を始めてからここまで約1時間。長富さんはうんざりした様子で話した。「払い戻しはすぐにできると思っていた。何もかもテンポが悪すぎる。オペレーターは島根の地理を知らず、対応も心もとない」

みどりの券売機プラスを操作してオペレーターと会話する男性=7月、松江市

 島根県内では「窓口」の多くがなくなり、「プラス」に置き換わった。同県出雲市の山陰線出雲市駅では、特急で岡山県に帰宅しようとしていた平井千覚さん(28)が「プラス」を含む複数の券売機の前で固まっていた。IT企業で勤務していて機械に抵抗はないと言うが「どの券売機で特急の切符を買えるのかすら分からない。もっと表示を分かりやすくしてほしい」。

 みどりの券売機プラスは、新幹線・特急の切符を販売する指定席券売機にコールセンターとのビデオ通話機能を持たせたもの。「窓口を減らしつつも、窓口のサービスを確保できる」(JR西の担当者)との触れ込みだ。早朝や深夜の時間帯にも切符を買えるメリットがあり、「窓口」が「プラス」に置き換わった駅では切符を購入できる時間が長くなったところも多い。画面越しに通学証明書などを確認し、従来の券売機では買えなかった通学定期を買うこともできる。

 ただ、堺市西区の阪和線上野芝駅では6月上旬、こんなおわびの紙が貼られていた。「通学定期の在学確認作業が殺到しております。オペレーター待ち時間の目安表示に対し、3~5倍以上の待ち時間が発生する場合がございます。何卒ご容赦ください」

JR上野芝駅のみどりの券売機プラスに貼られたおわびの紙=6月、堺市西区

 ▽背景に人員不足、チケットレス化促進の狙いも

 JR西日本は「プラス」の待ち時間について「学生定期の購入が集中する4月でも、1日平均で見れば11分(担当者)」としており、待ち時間が少ない時間をSNSで周知するなどして利用者の分散を図っている。夜8時以降は利用者が減る傾向にあるといい、比較的時間がかかる学割の利用やキャンセル、乗車日時の変更手続きは、夜間や前もってやった方が良さそうだ。

駅員の案内を受け、みどりの券売機プラスを操作する女性=7月、島根県出雲市

 JR西日本は2020年12月、「窓口」設置駅を30年度末までに約330駅から約100駅に順次削減すると発表。22年7月時点では、約200駅に「プラス」が設置された。うち「窓口」が廃止となったのは約160駅に上る。
「窓口」を減らす背景には人手不足のほか、ICカードやスマートフォンを利用して乗車予約するチケットレス化の普及がある。JR西日本はこうした駅の販売体制の見直しで、22年度末時点で駅係員約400人分の人件費削減を見込む。
 

JR西日本の長谷川一明社長=4月、大阪市

 新型コロナウイルス流行による鉄道利用者数の低迷で、同社の3月期連結決算は2年連続の赤字となった。経営悪化に苦しむ中、現時点で「プラス」の導入を見直す予定はないとしている。改札機のメンテナンス費用がかかる紙の切符の取り扱いを減らしてチケットレス化を加速させ、将来的には「プラス」の利用者そのものを減らしたい意向だ。

 しかしそうは言っても、「プラス」の当面の対策は必要となる。お盆休みの時期には利用者が増え、オペレーターとの会話の待ち時間が伸びることが予想される。シフトを工夫したり、SNSで混雑する時間帯を周知したりして利用者の待ち時間を減らす計画を立てる。中期的な対策としては、社員教育を進めて現在約100人いるコールセンターの要員を増やす。また、オペレーターに電話をかける人を減らすため、駅員らに利用者の操作を助けるよう、社内通知で指示もした。

 

みどりの券売機プラスなどの遠隔対応を行うコールセンターの様子=2019年2月、兵庫県尼崎市

 ▽手軽さ、便利さが大前提の鉄道

 みどりの窓口を縮小する動きはJR他社にも広がる。JR東日本は21年5月、「窓口」設置駅を25年までに約7割減らす計画を発表。窓口業務のコストを抑えたい考えで、「プラス」と同機能を持つ券売機への置き換えを進めている。JR四国やJR九州でも同様の動きが進む。
 飛行機に比べ待ち時間が少なく、気軽に乗れるのが交通手段としての鉄道の利点だ。企業の懐事情は理解できるが、「窓口」がなくなった駅では、高齢者だけでなく、スマートフォン操作に慣れた若い世代にも戸惑う人の姿が見られた。ネットで事前購入した切符がすぐに駅で受け取れず、列車に乗り遅れる事態も起きていると聞く。またチケットレスでは買いたくても買えない切符があり、割安でないこともある。乗客の手軽さや便利さがむしろネット移行によって失われる結果にならないか、懸念される。

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