愛しさを感じながら演じていました
――二十代は社会に出て急激な環境の変化に戸惑う時期でもあるので、『甲州街道から愛を込めて(以下、甲州街道)』観ていてそのころの気持ちを思い出す心に刺さる作品でした。
有里まりな:
ありがとうございます。
古瀬リナオ:
そう言っていただけて嬉しいです。
――『甲州街道』はWEB公募オーディションでかなり開けた形のオーディションでしたが、どういったきっかけで知られたのですか。
有里:
WEBの募集を見て応募させていただきました。
――オーディションの時は作品についてどれくらい説明があったのでしょうか。
有里:
応募の時はあらすじとキャラクターについての概要をいただいたくらいで、書類選考が通ってオーディションになりますという段階で脚本が送られてきました。
――お二人とも今回演じられた役でオーディションを受けられたのですか。
有里:
私は最初から歌いたい一心でリリコ一択でした。
古瀬:
私は二人どちらの気持ちもわかるので決めかねていて、リリコとマナミの両方受けました。
――いまおかしんじ監督は「若い俳優で二十代のモヤモヤを晴らすような作品を作りたい。」ということで今回の作品を制作されたそうですが、そういったことについてはお話しされたのでしょうか。
有里:
テーマの一つとして「リリコとマナミの関係性を丁寧に描きたい。」ということはおっしゃられていました。
古瀬:
シスターフッドとも言えるんですかね、「同性同士の絆を撮りたい。」というお話を伺いました。ただほかにもテーマがたくさん詰まっている作品ですね。
――演じられたキャラクターから最初に受けた印象など伺えますか。
有里:
リリコはバンドが解散したところから物語が始まっていますが、たぶん一回じゃなく何回もあると思うんです。歌を歌うということに関しても夢ではありますが、同時に歌手である父親の影を追いかけている面もあるんじゃないかと感じています。そういうドロドロとした気持ちを胸の内に抱えているキャラクターなので、いろんなことを考えながら演じました。
古瀬:
おそらくマナミも恋に破れるのは一回目じゃないんですよ。毎回へこんでは立ち直ってというのを繰り返していると思います。そんな中、現実から目をそらし続ける原因となった好きだった人に会いに行くことを決意する。そんな道中で出会った悩み・弱さを持つ女の子に自分を重ねたところもあると思います。一つ・一つの物事に一喜一憂しながら少しずつ前に進んでいく姿には共感もしたし、そんな素直で可愛いらしい彼女に愛しさを感じながら演じていました。
お芝居はコミュニケーションの中で生まれてくるもの
――現場でいまおか監督とはどのようなお話しをされましたか。
有里:
「相手を引き立てるお芝居をしてほしい」ということをおっしゃられていたこが印象に残っています。お芝居はコミュニケーションの中で生まれてくるものなので、そういうことを意識してほしいということなんだと思っています。素敵な言葉ですね。
古瀬:
本読みをしたばかりで自分の役を考えながら演じていた時は、みんなもまだ探り探りな部分があったと思うんです。私も不安があった中でお話をさせていただいたときに「どうしようとか考えずにそのまま乗っかっちゃって。自然に動いてくれればいいから。」と言っていただいました。いざ始まってみると現場の皆さんや監督が作ってくれる雰囲気・空気感から、不安も吹き飛び目の前にいる人のことだけを考えて集中できました。凄くありがたくて心強かったです。
――リリコとマナミは以前からの友人ですが、二人の関係性や掛け合いについては撮影前にお話しされたりはしたのでしょうか。
有里:
実はそれほど長い付き合いの二人ではないんです。出会ったのもリリコがストリートライブをしているところにマナミが来たことが切っ掛けなんです。そこは劇中では描かれてはいませんが、お互い孤独な時に出会って支え合った大切な友人ということですね。
――大人になってからそういう出会いをして仲良くなるのはいい関係ですね。しかも、初恋の人に会いに行くのにも付き合うという。
古瀬:
お互いに信頼関係があって、いいですよね。
――そんな二人がタイチとルミに出会い旅に出るわけですが、遠藤史也さんと和田瞳さんとはどのように四人のキャラクターの関係性を作り上げていかれたのですか。
古瀬:
脚本を最初に読んだ時もマナミはもっと暗い子なのかなと感じたのですが、みんなと会話を交わして演じていくうちに常にふさぎ込んでいるわけでもないんじゃないかなという気づきがありました。
有里:
私も最初リリコはもっと人を突っぱねるキャラなのかなと思っていました。ただ、演じていく中で不器用で人とコミュニケーションをとるのが苦手なだけなんだという発見がありました。思っていることが意外と漏れていますし、それを誤魔化して取り繕おうとして収集がつかなくなる素直な子なんだなと思いました。
古瀬:
四人とも交わることでどんどん可愛くなっていきますよね。
――四人とも素の部分を隠しきれていないですよね。
有里:
みんなこぼれてますよね。そういう面でリリコもマナミも似ている部分はありますね。
――お父さんと初恋の人で違いますけど一途に追いかけていますし。
有里:
そうなんです。マナミの告白について行くと言いながら、自分もちゃっかり会いに行ってますから。
――マナミも恋に破れて落ち込むのかと思ったら、二人を祝福していて。強いですよね。
古瀬:
あの二人を見せられたら逆に諦められるなと思いました。辛かったと思いますが、マナミは大丈夫です。
素直に入ってくるぐらいカラッと描かれているのが魅力
――最後の別れもさわやかなので、それが観終えた後の気持ちの良さにも繋がっていました。
有里:
それが、いまおか監督の力なんだと思います。脚本を最初に読んだ時は引きずってふさぎ込んでしまうんじゃないかと思っていたのですが、完成して観るとカラッと描かれていて素敵だなと思いました。
古瀬:
切ないラストではあるんですけど、さわやかな風を吹かせて終わるのがいいですよね。
――そうですね。あのラストから四人で演奏するEDに繋がっていくのも良かったです。
有里:
EDの演奏するシーンですけど。あれは、リリコの妄想なんです。四人でいることが凄く心地よくて、四人でバンドができたらなということを思った妄想なんです。 古瀬:だから、あのEDも実は切ないんですよ。
――観方が変わりますね。
有里:
ですよね。
――実は四人の中で一番女々しいのはタイチなんですよね。別れたあともリリコに思いを馳せていて。
有里:
リリコはもう先に進んでいるけど、タイチはしばらく引きずりそうですよね。
古瀬:
あの後がどうなるかは想像が膨らみますよね。タイチは凄く優しい人だと思うので、幸せになってほしいですね。
――四人とも相手のことを正面から受け止めていますから、優しいんですよね。
有里:
四人とも寂しさを持っていて、受け止めてくれる存在を求めているんです。そういう満たされていない部分が合致したから一緒にいれたのかもしれないですね。
古瀬:
共感や肯定とかを凄く求めているんだと思います。マナミで言うとルミと共感する部分もありましたし、リリコとは違った角度でシンパシーを感じあえたから急速に仲良くなったりしたのかなと思います。
――そうやって四人が交流していく姿とロードムービーというスタイルがあっていたのかもしれないですね。同じ思いを抱え、解消したいという姿が重なっていて、お話を伺ってさらに奥が深いいい作品なんだなと感じています。
有里:
素直に入ってくるぐらいカラッと描かれているのが魅力の一つだと思います。
――物語としては大人の青春をさわやかに描いているので、素直に観返せる作品ですね。改めて観返したいなと感じています。
古瀬:
世界から見たら凄くちっぽけなこと、何でもないようなことを何でもない事のように描いている映画です。サラッとしたように感じるかもしれませんが、深堀して楽しんでいただける部分もあるので、ぜひいろんなことを感じながら見ていただきたいです。
――観返すことで四人それぞれの視点でどうだったのかというのも楽しめますね。
有里:
不器用な男女の姿が描かれているので、きっと四人のうちの誰かに共感できる部分があると思います。生きづらさもある世の中ですが、生きづらさを感じている人に一人じゃないんだと感じてほしいです。
古瀬:
私たち四人も帰った後に新たな思いや道があったように、『甲州街道』を観ることで何かを受け取っていただき、みなさんの背中を押せればと思っています。
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