「ゼロコロナ」発表の北朝鮮、国内からも「統計は嘘」の声

北朝鮮の国家非常防疫司令部は今年の5月15日以降、全国の有熱者(発熱患者)の数を毎日発表してきた。当初は30万人を超えていたものの、右肩下がりが続き、ついに7月30日発表分ではゼロとなった。

海外ではその信憑性を疑う声が上がっているが、それは北朝鮮国内とて同じで、先月12日に国家非常防疫司令部が開いたオンライン緊急会議では、虚偽報告や過少報告について「今後は許さない」「正確に報告せよ」との警告が出されている。

それでも結局ゼロになってしまったのは、過少報告よりも、発熱患者が増えたと報告することの方が処罰されるリスクが高いと、地方の防疫担当者が判断したためだろう。また、万が一地方から正しい数字が上がってきたとしても、それが患者が増えているというものであれば、処罰を受けるのは中央の担当者とて同じだ。重罰主義が虚偽報告を生みだしてしまうのだ。

発熱患者がゼロになったことで、「非常防疫大戦で大勝利」などと大騒ぎしているかと思いきや、国営の朝鮮中央通信は2日、「全国家的、全社会的に頑強な保護防疫態勢を堅持」という記事を配信するなど、従来の防疫体制が維持されると伝えている。また、全国的な移動統制も続いていると、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

情報筋は、他地方に行くのに必要な旅行証明書(国内用パスポート)を申請しようとしたところ、担当部署の人民委員会(市役所)2部に派遣されている安全員(警察官)から、「申請したところで発給できない」と、受付を断られたと述べた。

黄海南道(ファンヘナムド)の情報筋も、「通行証(旅行証明書)は申請もするなというのが最近の指針」とし、発熱患者がいないとしても、国家防疫体制が緩和されたわけではなく、漏れがないように強化された状態が続き、商売や個人的な事情で下手に申請すると、国家防疫に穴をあける反動(反政府分子)扱いする勢いだと述べた。

全国的な移動統制は、弊害があまりにも大きかったため緩和され、道内の他の市や郡に行くことは認められていたが、最近では再び規制が強化、公民証(IDカード)のみならず、防疫確認証を持参が必須になっている。

また、緊急な公務で出張に行く場合、必要な書類をすべて持っていても、哨所(検問所)を通るたびに止められ、尋問と二重三重の消毒を経て、ようやく通過が認められる。

「発熱患者はいない」と発表する一方で、ガチガチの防疫体制は続けられている現状を見た北朝鮮の人々は、当局の発表する統計に不信感を示している。

「お向かいもお隣も、町内全てが熱を出して隔離されている人も多いのに、国が発熱者はいないと発表するのが理解できない。統計が2種類あるのではないか」(両江道の情報筋)

また、金正恩総書記が、自宅用の医薬品を患者に寄付したことが、統計を狂わせているのではないかとの指摘もある。「元帥様(金正恩氏)が薬を送ってくださり、それで人民が健康になったと報告しなければ、幹部の首が飛ぶ」(黄海南道の情報筋)からだ。

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