漫画「おり鶴さん」が単行本に ユーモアと風刺で核廃絶訴え “最後の被爆漫画家” 西山進さん(94)

「おり鶴さん」単行本の4こま漫画の下には、作品が描かれた時代背景を解説する文も付けている

 「最後の被爆漫画家」と呼ばれる西山進さん(94)=福岡市=が40年以上、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の月刊紙で連載する4こま漫画「おり鶴さん」を収めた単行本が完成した。長崎の原子野で見た「生き地獄」を繰り返さぬよう、ユーモアと風刺を交えて核兵器廃絶と不戦の願いを描いてきた西山さん。「恐ろしい原爆を二度と使わないで」と訴える。
 西山さんは17歳の時、少年工として働いていた長崎市の造船所(爆心地から約3.5キロ)で被爆。救援隊として爆心地周辺を歩き、黒焦げやガラスが刺さった遺体を多数目撃した。
 1979年11月、51歳で機関紙「被団協」に連載を始め、昨年5月までに4こま漫画494点、漫画付きルポなど6点の計500点を掲載(現在は休載中)。被爆者援護や核廃絶を求める被爆者や市民の様子、政治家への鋭い批評などを柔らかなタッチで描く。

「おり鶴さん」の単行本化を喜ぶ西山さん=福岡市内(「おり鶴さん」編集・出版委員会提供)

 単行本化は、以前から西山さんと親交のある被爆者の間で待望論があった。昨年、長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)の横山照子副会長(81)ら3人が共同代表となり「編集・出版委員会」を設立。報道関係者らも編集に協力し、全500点のうち、テーマが重複する作品などを除く335点を収録した。時代背景の解説文やコラムも加えた。
 同委が長崎市役所で3日会見し、完成を報告。福岡の高齢者施設に入所している西山さんはビデオメッセージを寄せ、「被爆者が少なくなる中、原爆の恐怖を伝え続けようと描き続けてきた。すーっと入ってくるように分かりやすく描いているので、みんなに読んでほしい」と願った。
 西山さんの体験を語り継ぐ「交流証言者」として活動する調仁美さん(60)=長崎市=も会見に同席し、「戦後史を漫画で学べて新たな発見がある。西山さんは多くの被爆者の『代弁者』として描いてきた。作品を通じて、被爆者団体の運動や政治の流れも知ってほしい」と語った。
 単行本「おり鶴さん 漫画で描きつづけた被爆者の戦後」は、A5判224ページで1500円(税別)。77回目の「長崎原爆の日」となる9日に発行する。全国の書店やインターネット通販サイトで購入できる。問い合わせは書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)(電092.735.2802)。


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