【発熱外来受診に代えた抗原検査キット無料配布】神奈川県は薬局配布に“報酬なし”/薬局からは戸惑いの声

【2022.08.05配信】国が進める「発熱外来の受診に代えた抗原検査キットの無料配布」。外来医療のひっ迫を踏まえ、発熱外来において、受診に代えて抗原定性検査キットを重症化リスクの低い有症状者に配布し、医療機関の受診を待つことなく健康フォローアップセンター等での健康観察を受けることができる体制の整備を自治体に要請している。この配布先に薬局を選択肢に入れてよいとされているが、実際に薬局を配布先とするかどうかは、あくまで地域事情に応じた都道府県の判断にゆだねられている。このほど、本メディアの取材により、神奈川県は薬局を対象とし、配布事業に対して“報酬なし”とすることが分かった。薬局現場からは戸惑いの声も聞こえる。

8月5日、神奈川県にある薬局に、県から抗原検査キットが届いた。
職員は開梱し、配布への準備を進める。

しかし、この抗原検査キットの配布はこれまでと様相が異なるもの。
職員が配布する業務に対し、一切、報酬が支払われないのだ。

これまで薬局からの抗原検査キットの供給に関しては、通常の医療用抗原検査キットの販売(有料)に加えて、都道府県などが実施している無料化検査事業における協力などがある。

両方とも基本的には無症状の人を対象としており、これまでのスキームでは陽性が判明した場合は、受診を勧奨することになっている(無料化検査事業は都道府県により対象の要件が異なる)。

今回は、前述のこれまでの取り組みに加えて、発熱外来の受診に代えて、有症状の人に対して抗原検査キットを無料配布するスキームを加えるもの。発熱外来のひっ迫を踏まえた措置だ。

この配布先として、検査・診療医療機関に限らず、地域外来検査センターに加えて、公共施設や薬局も考えられることを明確にしているもの。
配布先を医療機関や検査機関に限定するのか、それとも薬局も含めるのかは、あくまで都道府県の判断に委ねられる。

この“発熱外来受診に代えた抗原検査キット無料配布”に関して、神奈川県は薬局も対象とすることとした上で、配布にかかる報酬は支払わないこととした。

神奈川県の資料によると、重症リスクの低い住民本人に県からQRコードを発行し、住民は薬局の職員にコードを提示する。提示された職員は自らのスマホでQRコードを読み取った上で1人2キットをビニール袋に入れて渡す。
手を挙げた薬局には5テスト入り、190箱、合計950テスト分が1カートンに入って届く。また、小分け用のビニール袋は同封されてくる。さらには、県が運用し、住民に公開される「抗原検査キット配布機関検索システム」に、「配布可能状況」(十分に確保、残りわずか、終了)をWEBフォーム上から更新することが求められる。
つまり、少なくとも、「小分け」「在庫管理」などの業務が発生する。加えて言うまでもなく、配布相手は有症状者であり、高い感染リスクのある業務を、“無償”、全くのボランティアで負えという県のスキームには、薬局関係者から戸惑いの声が漏れる。
通常の販売では売買差益が薬局の収入になるし、無料化検査事業では数千円が薬局に支払われるスキームだった。

今回、手を挙げた冒頭の薬局の経営者は、「すべての業務が全くの無償というのは納得できない。しかし、今回のスキームで薬局が対象となったのは、発熱外来等がオーバーフローになっているからで、つまり医療現場がとても困っている状態の中で薬局が選択肢になったと理解している。そうであるならば協力しないといけないと思った」と話す。
そう話す同薬局自体も感染拡大と無関係ではない。
実際に薬局の中核スタッフが濃厚接触者として休みに入っており、薬局の業務自体が逼迫している状況。
ただ、薬局スタッフの使命感が強く、手を挙げるに至ったと同薬局経営者。「スタッフに受けるかどうか聞いたところ、受けると返事があった。職員の志で受けた面がある」。

本紙が神奈川県に確認すると、「強制でお願いしているわけではない。無償であることを提示した上で、手を挙げるところを募っている」と、にべもない。

“無償”は神奈川県だけではない

今回の、“発熱外来受診に代えた抗原検査キット無料配布”の薬局での配布業務を“無償”としているのは神奈川県だけではない。
青森県の薬局によると、同様の申し入れが県からあったという。

ただ、ある青森県の薬局経営者は「今、受けないと、“薬局はいざという時に動いてくれない”という烙印を押されかねない」との危機感を表明し、地域薬剤師会単位での協力体制構築を検討するとしている。
前述した通り、感染拡大もあり、個々の薬局で受けきれないことが想定されるため、個々の薬局の可能な範囲、例えば「午前中のみ応需」などの要望を聴取し、地域薬剤師会として、地域に対しての協力体制を提示したい考えだ。

都道府県と薬剤師会の連携体制がより重要に

今回のスキームは突発的に生じたこともあり、予算措置がとれなかったり、都道府県と都道府県薬剤師会が十分に交渉する余地が少なかったようだ。

全く都道府県薬剤師会に連絡がないまま、薬局は対象外とすることが決まった県もあったようだ。

ただ、そういった中でも全ての都道府県で「薬局対象・無償」であったわけではなく、例えば大阪府では薬局での配布を有償とした。背景にはこれまでのワクチン接種協力体制などで、大阪府薬と大阪府が交渉のやりとりをする素地が出来上がっていたことが奏功したのではないかとの指摘もある。

こうした事例は、今後、都道府県薬剤師会が自治体との協力体制を構築できるかどうかが非常に重要になってきていることを示している。特にこれまで薬局の交渉窓口は都道府県薬務課であったが、今回のスキームは主に都道府県のコロナ対策室が主導しており、薬剤師会の関係性が薬務課だけでなく、都道府県中枢に届いていることの必要性も示した。

加えて、いくら都道府県の判断に委ねるとはいえ、配布機関への報酬のあり方などは、国、厚労省から一定の指針を示してほしい、また日本薬剤師会から指針への要請をしてほしいという声があることは言うまでもない。

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