ウクライナ侵攻で国防強化求める声 「外交努力こそ必要」82歳被爆者の訴え

国内外で交流を深めた人の署名を入れたブラウスを掲げる花垣ルミさん。昨年10月に亡くなった被団協代表委員の坪井直さんらのサインもある(京都市中京区・京都新聞社)

 ロシアのウクライナ侵攻で核廃絶への取り組みに逆風が吹く中、広島で被爆した京都市の女性が非核への訴えを強めている。プーチン大統領は核兵器使用の可能性を示唆し、日本では米国と核兵器を共同運用する「核共有」論まで浮上する。77回目の「広島原爆の日」を前に、女性は「ウクライナを見て戦禍への想像力を働かせ、平和につなげてほしい」と呼びかけている。

 ロシアが攻撃を始めた2月下旬、テレビでは破壊されたウクライナの街が繰り返し映し出された。「がれきの下には体の一部しか残っていない人も多くいるはず」。花垣ルミさん(82)=京都市北区=は1945年8月6日の記憶を重ねた。

 5歳の時、爆心地から約1.7キロメートル離れた広島市の自宅で被爆。逃げた先の河原では、熱でタイヤのチューブのように膨らんだ遺体が樹上に貼り付き、卵が腐ったような、焦げたにおいが漂っていた。その場で、母に抱きしめられながら気を失った。

 長年、核廃絶を目指す活動を続け、現在は京都原水爆被災者懇談会代表を務める。2003年に広島市で開かれた原水爆禁止世界大会への参加をはじめ、核拡散防止条約(NPT)再検討会議に関連して国連本部のある米ニューヨークを訪れ、米国人とも「核のない世界」実現について意見を交わしたこともある。

 しかし今、ウクライナ侵攻を受けて日本でも国防強化を求める声が強まっているように感じる。

 今春、右京区の阪急西院駅前で核廃絶の署名活動中のことだ。高齢男性に「相手国から撃たれそうでも、日本は無防備なままでいいのか」と迫られ、花垣さんは「私は被爆者です」と打ち明けた。「日本が戦争をしていたから広島で十数万人が無防備で殺された。平和的な外交努力こそが必要ではないか」と懸命に説得した。「核共有すれば米国につけ込まれ、日本に核兵器を置け、作れと必ず言われる」。周辺国に脅威と映り、攻撃されるリスクを高めると考えている。

 日本政府の姿勢に物足りなさを感じる。核兵器を初めて違法とした核兵器禁止条約の第1回締約国会議が6月下旬にオーストリアで開かれたが、日本はオブザーバー参加すら見送った。会議の日、花垣さんは山科区で開かれた集会でマイクを握り、「一体どこの国が被爆したのか。被爆者の願いがないがしろにされている」と怒りを込めた。

 核廃絶が見通せない中、花垣さんは被爆者自らが体験を伝えることに活路を見いだす。「戦後77年間、日本が平和でいられたのは広島と長崎の犠牲を踏まえて非核三原則を守ってきたから。被爆者として悲惨な経験を伝え、戦争を経験していない世代にも想像力を働かせてもらえたら」。惨禍を生かされた者としての責任の重さに表情を引き締める。

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