東京メトロ南北線の延伸計画はどこまで進んだか【コラム】

南北線を走るメトロ車両9000系は営団地下鉄時代の1990年にデビューしました。ワンマン運転に対応。設計にあたっては、地域との調和や人に対するやさしさをテーマにしました(railway memory / PIXTA)

ちょうど1年前、鉄道ファンの間でちょっとした話題になったのが東京メトロ南北線の延伸事業です。プロジェクト名は「都心部・品川地下鉄構想」。南北線白金高輪駅から分岐して、品川駅にいたる地下鉄新線というか枝線の建設計画です。

東京都都市整備局は2022年6月、東京メトロとの連名で、地元向け説明会(正式には都市計画素案説明会)を沿線2カ所で開催。説明会資料は公表され、概略ルートや工法が明らかになりました。本コラムは、南北線の歴史とともに、新線整備の意義などを再検証。南北線と相互直通運転する、埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線の延伸構想についても、あわせてご報告させていただきます(なお、新線の駅名「品川」は仮称です)。

2000年に目黒―赤羽岩淵間が全通

最初にメトロ南北線のプロフィール。計画時の名称は「都市高速鉄道7号線」で、ルートは目黒―赤羽間でした。しかし、東京都心の大手町付近を経由しない地下鉄路線とあって、緊急性は低いと判断。着工は後回しにされました。

そうこうしているうち、目黒での東急目黒線との相互直通運転が決まり、赤羽側終点はJR赤羽駅から800メートルほど北東側の赤羽岩淵に。赤羽岩淵以北の埼玉県方面は、第三セクターの埼玉高速鉄道が運営することになりました。

1991年に赤羽岩淵―駒込間が部分開業(通常とは逆の終点側からの表記です)。2000年に目黒―赤羽岩淵間(21.3キロ)が全線開業しました。

途中の白金高輪駅は都営地下鉄三田線と共用。三田線から南北線に乗り入れる都営列車は白銀高輪―目黒間、メトロの線路を借りて運行されます。両端駅では、目黒で東急目黒線、赤羽岩淵で埼玉スタジアム線と相直します。

地下鉄9路線と接続

南北線は都営三田線、東急目黒線、埼玉スタジアム線以外にも、いろんな路線と接続します。目黒でJR線、麻布十番で都営大江戸線、溜池山王でメトロ銀座、千代田、丸ノ内線(千代田線と丸ノ内線の駅名は国会議事堂前)、永田町でメトロ有楽町、半蔵門、丸ノ内、銀座線(丸ノ内線と銀座線は赤坂見附)に乗り換えられます。

さらに、四ツ谷でメトロ丸ノ内線とJR線、市ヶ谷でメトロ有楽町線と都営新宿線、JR線、飯田橋でメトロ東西、有楽町線と都営大江戸線、JR線、後楽園でメトロ丸ノ内線と都営三田、大江戸線(三田線と大江戸線は春日)、駒込と王子でJR線に接続します。地下鉄で直接の接続がないのはメトロ日比谷、副都心線と都営浅草線です。

2000年以降、交通集積した品川

ここから本題の「都心部・品川地下鉄構想」。東京都の資料では、「東京メトロ南北線の分岐線(品川―白金高輪間)」と表記されます。本コラムも分岐線として紹介します。

分岐線の発想はいつ出たのか。鉄道計画に詳しい方は、国土交通大臣の諮問機関・交通政策審議会(交政審。2001年の中央省庁再編までは運輸政策審議会=運政審)が、10数年ごとに三大都市圏の鉄道整備の方向性を答申の形で公表することはご存じでしょう。

直近は2016年4月の「東京圏における今後の都市鉄道のあり方」ですが、その一つ前、運政審の「運輸政策審議会答申第18号」には分岐線は記載がありません。

振り返れば18号答申当時、南北線を品川に伸ばす構想は表面化していませんでした(運政審答申2001年1月、南北線全通同9月)。

変ぼう遂げる品川駅

分岐線の新駅が地下に設けられる品川駅高輪口全景。正面がJR駅、右側が京急駅。駅前広場はいかにも手狭ですが、国土交通省は広場を2階建てにして、鉄道からバスやタクシーに乗り継ぐ交通結節点にする計画です(筆者撮影)

しかしその後、品川は大きく変わりました。2003年に東海道新幹線品川駅が開業。2013年には、リニア中央新幹線の東京側始発駅が品川に正式決定しました。

2015年にはJR東日本の上野東京ラインが開業して、常磐線列車の多くが品川始発になるなど、品川駅は東京都心南側の拠点ターミナルとして存在感を高めます。

さらに、2010年からは羽田空港が国際化(正式には再国際化)。品川は京急利用で羽田空港と直結し、世界と国内各地をつなぐ拠点駅として機能します。

都心部と品川駅のアクセス利便性向上

現在、品川駅に地下鉄の乗り入れはありません(都営浅草線につながる品川―泉岳寺間は京急本線です)。浅草線をのぞき、品川に一番近い地下鉄がメトロ南北線。先述の交政審答申には、「都心部・品川地下鉄構想の新設(白金高輪―品川)」が明記されました。

答申は、新線の整備意義を「六本木などの都心部と、リニア中央新幹線の始発駅・品川駅や国際競争力強化の拠点である品川駅周辺とのアクセス利便性の向上(大意)」とします。品川駅周辺とは、JR東日本が開発を主導する「高輪ゲートウェイシティ」を意味します。

白銀高輪から〝Ωルート〟で品川へ

分岐線の平面図。白金高輪から180度進行方向を変えて品川に向かいます。途中、都営浅草線高輪台駅をかすめますが、南北線側の接続駅は設けられません(資料:東京都市計画 都市高速鉄道第7号線 東京メトロ南北線の分岐線(品川~白金高輪間)計画)

分岐線のルートですが、都の資料によると、いったん白金高輪から南北線の次駅・白金台方向に西進し、そこから180度方向転換して品川にいたります。

分岐線の白金高輪―品川間は約2.8キロ。白金高輪駅付近の約0.3キロは、既設の南北線と同一ルートなので、都市計画変更区間は約2.5キロになります。延伸区間の線形は、ギリシャ文字になぞらえて「Ω(オメガ)形」とも表現されるようです。

品川駅ホームは1面2線

細かい点では、これまで分岐線の品川駅ホームはJRや京急と平行の南北方向か、それとも直角の東西方向かは未定でした。都の資料では、ホームは南北方向に設置されるようです。

資料では、新線の建設方法も明らかになりました。品川駅と白金高輪駅部は地上からトンネルを掘る開削工法、中間部は地中を掘り進むシールド工法を採用します。

品川駅は箱型トンネルで、幅約19~22メートル。ホームの両脇に線路を設ける島式1面2線構造です。

開削工法で建設される品川駅部。図面で見る限りホームは地下2階、コンコースなどは地下1階に設けられるようです(資料:東京都市計画 都市高速鉄道第7号線 東京メトロ南北線の分岐線(品川~白金高輪間)計画)

最近の地下鉄としては、非常にオーソドックスな工法といえるでしょう。着工や完成時期は資料への記載はありませんが、工期約10年と試算すれば、準備期間を考慮しても、2030年代半ば以降には南北線の品川乗り入れが実現しそうです。

品川駅から新幹線、リニア、羽田空港にGo!!

ここで分岐線の整備効果を考えましょう。品川駅は東海道新幹線やリニア、羽田空港へのアクセスポイントです。駅周辺には、品川インターシティや高輪ゲートウェイシティが広がります。

分岐線が開業すれば、東京都北区や相直の埼玉スタジアム線沿線から品川に乗り換えなしで直行できます。さらに、南北線は多くの地下鉄線と接続するので、各線から新幹線やリニアの利用が便利になります。

今後に関しては、都市計画案作成、環境影響評価書の作成、都市計画決定といった手順を踏んで工事着手になります。書き忘れましたが、分岐線整備を主導したのは東京都。新線を、国際都市・東京の競争力強化に役立てる考えです。

埼玉スタジアム線は浦和美園から岩槻、蓮田へ

埼玉高速鉄道の2000系電車は2000年から翌年にかけ6両10編成が導入されました。メトロ南北線9000系をベースに設計されました(画像:埼玉高速鉄道)

最後にメトロ南北線と相直する、埼玉高速鉄道の延伸計画にも触れましょう。埼玉スタジアム線は、赤羽岩淵―浦和美園間の14.6キロ、2001年に開業しました。

メトロ南北線の分岐線と同じ交政審の答申には、「埼玉高速鉄道線の延伸」が明記されます。ルートは浦和美園から北進して、岩槻を経て蓮田まで延伸。岩槻で東武アーバンパークライン、蓮田でJR東北線に接続します。

埼玉スタジアム線延伸のイメージ。浦和美園から岩槻までは約7キロ、その先蓮田までは約6キロあります(資料:さいたま市)

具体化はこれからですが、何より地元・埼玉県が、事業化に前向きというのが明るい材料。2020年末には住宅ローン会社が選定する「本当に住みやすい街大賞」で、浦和美園が10位に入って話題になりました。

紹介は別の機会に回しますが、メトロ南北線は2023年3月に予定される東急新横浜線、相鉄新横浜線(相鉄・東急直通線)の開業時、東急線を挟んで相鉄線との相直が始まれば、横浜市北西部や神奈川県央部とのネットワークも強化されます。列車はこれまでの6両編成から8両への増結が進みます。南北線は今、第二の成長期を迎えた鉄道路線といえそうです。

記事:上里夏生

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