新作が多数!瀬戸内国際芸術祭2022で注目のアート作品は?(春会期・夏会期)

作品数は214!新作が多数の瀬戸内国際芸術祭2022

瀬戸内海の12の島と2つの港を中心とする現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭2022」が、4月14日に開幕しました。

第5回目となる今回は、33の国・地域から、184組のアーティストが参加。新作・旧作を合わせて作品総数は214に上ります。

新型コロナウイルスの影響を踏まえ、瀬戸内国際芸術祭2022では、ボランティア・スタッフと協力しながらリモートで制作を行った海外アーティストが多くいました。そうした中でも、ユニークなアート作品がたくさん生み出されています。

本記事では、注目の新作をご紹介します。

目次

女木島

ナビゲーションルーム

架空の海を渡るための航海装置として作られた「ナビゲーションルーム」。

インスタレーション内には、マーシャル諸島の船乗りたちが使っていた、木の棒を組み合わせた海図「スティックチャート」や、一つ目の不思議な生き物が組み込まれています。

作家の二コラ・ダロは、「女木島には、かつて鬼が住んでいたという。その伝説を聞いたとき、(地中海を冒険した)オデュッセイアが思い浮かんだ」

「コロナにより、われわれは旅をしづらい状況が続いている。しかし、想像の中で、瀬戸内海と地中海という離れた地域を結び付けることができると思った」と語っています。

オデュッセイアの摩訶不思議な旅を象徴するかのように、室内には不思議なオルゴールの音が響き、機械装置がときおり不気味な動きを見せます。

≪女木島名店街≫ リサイクルショップ複製遺跡

2019年の瀬戸内国際芸術祭がきっかけで誕生した「女木島名店街」。アーティストならではのユニークな仕掛けに満ちたモノ・サービスが売られていたり、展示されていたりしています。

そのうちのひとつ「リサイクルショップ複製遺跡」では、島の内外から集まった物品を漆喰の壁に埋め込み、展示販売をしています。

一部の商品には、その来歴を聞き書きしたテキストが付けられており、島の歴史を感じることができます。また、全ての物品が売れ終わった漆喰壁は、廃棄されず、室内に展示されます。

物品の痕跡を残す漆喰の壁は、まるで新たな島の歴史を表しているかのようです。

≪女木島名店街≫ MEGI Fab(メギファブ)

写真、映像などを使ったインスタレーションを発表しているアーティスト・三田村光土里の作品「MEGI Fab」は、女木島オリジナルの布製品ブランドを作ろうとする野心的な取り組みです。

店内では、女木島に関連するものを使った布製品が販売されているほか、女木島の風景をテキスタイルに写し取った作品が展示されています。

テキスタイルには、白黒や青色の風景写真の上に、幾何学模様が描かれています。現代的なオシャレさを備えつつ、どこかノスタルジックな味わいのテキスタイルは、女木島旅行の特別な思い出になりそうです。

男木島

学校の先生

ロシア出身で、現在は米国ニューヨークを拠点に活動するエカテリーナ・ムロムツェワ。その作品「学校の先生」は、さまざまな人の心に浮かぶ「先生」のイメージを形にしたものです。

展示スペースの中には、作家が描いた「先生」の絵が複数あるほか、男木島の子どもたちがワークショップで描いた「先生」の絵も展示されています。多彩な「先生」の在り方を見ながら、自分にとって先生とはどんな存在か、省みてもいいかもしれません。

なお、エカテリーナ・ムロムツェワは、スポイトで絵具を吸い、紙にたらしていくという特殊な技法で絵を描いています。色の滲み具合が、ファンタジックな雰囲気を醸し出している点も魅力的です。

No.105

瀬戸内の名産であるレモンをイメージしたバブルチェアを、屋外と廃工場の中に展示した「No.105」。

バブルチェアは、座ったり、中に入ったりすることができます。筆者は実際に座ってみましたが、まるで雲の上に座っているような、不思議な気持ちよさがありました。

人間の五感のうち、もっとも使われているのは視覚だと言われています。しかし、それ以外の感覚を開くことで、新たな発見があるのではないか。そんなことを体験させてくれる作品です。

小豆島

ダイダラウルトラボウ

小豆島の南部にある三都半島は、たくさんのアートが楽しめるホットスポットです。ここに誕生したのが、海を眺めながら一休みする「ダイダラウルトラボウ」。高さ9.5メートル、全長17メートルの巨人です。

世界には多くの「巨人伝説」があります。こうした伝説では、巨人はしばしば自然や宇宙などを象徴する存在でした。

新型コロナウイルスによって、自然の力をいやおうなしに痛感させられている現在。この巨人には、自然との関わり方を再考させるメッセージが込められているようです。

巨人の足・体を形成する石や流木は、小豆島で取れたもの。顔は、もともと厳島神社の神事「管絃祭」で使われていた船を活用したものです。「ダイダラウルトラボウ」という名前には、日本の巨大特撮ヒーロー「ウルトラマン」のイメージも込められているのだとか。

ヒトクサヤドカリ

「ダイダラウルトラボウ」と同じく、小豆島の三都半島に生まれた「ヒトクサヤドカリ」。家を殻にし、海の近くに住み着いています。

琉球(沖縄)には、「神々が島を創った後、その穴の中にヤドカリが作られ、ヤドカリが繁殖した後に穴の中から人間が生まれてきた」という創世神話があります。本作は、この神話をモチーフにしたもの。

海風に気持ちよさそうに吹かれている「ヒトクサヤドカリ」もまた、「ダイダラウルトラボウ」と同じく、人間がどこから来て、どこへ向かっていくのかを考えさせてくれる存在なのかもしれません。

La dance

「妖怪美術館」をはじめ、多くのアートが集まる小豆島・土庄港近くの「迷路のまち」。

その中にある「La dance」は、カンボジアの貧しい地域で集められた鍋・フライパンなどのアルミ製品を使い、サルスベリの樹を型どった作品。タイトルの「La dance」は、アンリ・マティスの有名な絵画「ダンス」を踏まえたものだとか。

多くの人は、カンボジアがどんな国かを知らないかもしれません。しかし、マティスの「ダンス」のように、そこにも躍動する人々の生命があります。海の向こうで生きる人々の息遣いが伝わってくるような作品です。

POROPORO

世界的なファッションデザイナー・コシノジュンコの作品「POROPORO」。小豆島の土庄港にある「アートノショーターミナル」で展示されています。

人間の合理が生み出した「四角四面」の世界に対し、水の波紋や地球の形など自然が生み出す「マル」の世界。それらを融合させないまま、共存させることで、新しい美しさを生み出すことを狙った作品です。

屋内の展示にも関わらず、果てしなく続く円を見ていると、どこか海のような雄大さを感じるかもしれません。

直島

ヴァレーギャラリー

瀬戸内国際芸術祭の主要な会場のひとつとなるベネッセアートサイト直島でも、瀬戸内国際芸術祭に先駆けて新たなギャラリーがオープンしました。

美術館とホテルが一体となった施設「ベネッセハウスミュージアム」。その一部として2022年に新たに誕生したのが「ヴァレーギャラリー」です。

その名の通り、谷(ヴァレー)のような山間に設けられたスペースには、小沢剛の「スラグブッタ88 -豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏」と、草間彌生の「ナルシスの庭」の2作品が展示されています。「ナルシスの庭」は、世界的建築家の安藤忠雄が設計した建築の屋内外にある、大量のミラーボールによるインスタレーション作品です。より強く、自然・アート・建築の融合を体感できる空間です。

豊島

海を夢見る人々の場所

「豊島美術館」や「心臓音のアーカイブ」をはじめ、人気のアートが多く集まる豊島。

この豊島の甲生(こう)地区の海岸にさりげなく置かれているのが「海を夢見る人々の場所」。漁網や流木のような質感をイメージした鉄製ベンチです。実際に座ってみると、鉄とは思えないような柔らかい座り心地に、筆者はびっくりしました。

目の前に広がる海や空を見ながら、物思いにふけるのにぴったりのです。

かげたちのみる夢(Remains of Shadowings)

廃墟のように荒れ果てた古民家を使ったインスタレーション「かげたちのみる夢(Remains of Shadowings)」。

中には、埃をかぶった食器や家具が静かにたたずんでおり、時の移ろいを感じさせます。

その中にしばらくたたずんでから、陽光の差す外へ出ると、自分が夢の中を旅してきたような気分になるかもしれません。

本作品は、ギリシャ出身で日本で活躍した作家・小泉八雲(1850~1904)の短編『和解』に着想を得ています。『和解』は、別れた妻を忘れられなかった男が、彼女と再会して一夜を明かし、翌朝に起きてみたら、自分が廃墟の中で白骨と一緒に寝ていたことに気づくというプロット。

この短編にあるような、ただならぬ雰囲気を漂わせている作品です。

宇野港

実話に基づく

「実話に基づく」は、映画のロケに使われそうな雰囲気たっぷりの古い病院を使った作品です。この中で、作家が2000~2005年に撮影した、フランス・パリ郊外の建物が取り壊されていく様子を映した映像が流されています。

パリ郊外があった場所は、もともと96もの異なる国籍の移民たちが住んでいた街。そうした街が取り壊され跡形もなくなっていく一方で、宇野港近くにあるこの病院の建物は、40年近く使われないまま放置されていました。

建物と人間の関係を、深く問いかけてくる作品です。

赤い家は通信を求む

地元の人にもあまり知られていない、奥まった場所にある古民家を使ったアート作品「赤い家は通信を求む」。

家の中に一歩踏み入ると、さまざまなモノが不思議な動きをします。その様は、まるで「ポルターガイスト」のよう!

家の中には、宇野の古い写真なども貼られています。見ていると、まるで街や家が「私たちの過去を忘れるな」と迫ってくるような、不思議な感覚にとらわれるかもしれません。

本州から見た四国

岡山県の宇野港は、かつて四国と本州を結ぶ船(宇高連絡船)が発着していた場所でした。

ここに新たに誕生した「本州から見た四国」は、ステンレスのパイプを使って四国の形をかたどった作品。

「四国と本州の結びつきを忘れないように」と訴えかけるシンボルであると同時に、「ここから地域間の新たなつながりを創っていってほしい」という想いの表明のようにも見えます。

多くの旧作も楽しめる

このほかにも、瀬戸内国際芸術祭2022には多くの新作があります。さらに、過去の瀬戸内国際芸術祭で作られた作品の多くも、見ることができます。

瀬戸内国際芸術祭2022の概要や作品鑑賞パスポート、アクセス、オフィシャルツアーなどの情報は、以下のMATCHA記事を参照ください。

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