悲惨な”歴史”忘れない 「相当ダム」題材にドキュメンタリー 佐世保西高放送部

相当ダムの歴史を取材し、ドキュメンタリー番組を作った野澤さん(右)ら佐世保西高放送部=佐世保市、相当ダム

 佐世保市相浦地区などに水を供給している「相当ダム」。第2次大戦中に建設され、過酷な作業を強いられた米国人捕虜53人と日本人作業員14人が亡くなった。あまり知られていない過去を後世に引き継ごうと、県立佐世保西高の放送部が米軍などを取材し、約8分のドキュメンタリー番組を作った。企画・制作した同校3年の野澤元(もと)さん(17)は「私たちが使う水は悲惨な歴史の上で成り立っている。忘れてはいけない」と語る。
 題名は「Beside you(あなたのそばに)」。同校の水道水は相当ダムから供給されており「悲惨な歴史などが身近にある」という意味を込めた。
 きっかけは昨年10月ごろ、地元の直売所で慰霊碑の写真を見つけた。多くの米国人捕虜が亡くなったと知り、衝撃を受けた。図書館で資料を集めたり、柚木町の自治会長や海上自衛隊にダムの歴史的背景や犠牲者への思いなどを聞いたりした。制作途中にはロシアのウクライナ侵攻が勃発(ぼっぱつ)。捕虜など相当ダムに共通する内容が報道で飛び交った。「ニュースで起こっていることが身近にあった。信じたくない…」。葛藤しながらも、番組制作を続けた。
 米海軍佐世保基地には自ら電話し、取材を直談判。同基地参謀長らへのインタビューが実現した。放送部の取り組みを受け、毎年5月に開いている慰霊祭に高校生として同部の3人が初めて招待された。式で同基地司令官のデイビッド・アダムス大佐は「過去から学び、過ちを繰り返さない鍵となる努力を称賛する」と強調した。
 被爆地故に「原爆など戦争被害を受け身で学ぶことが多かった」と振り返る野澤さん。「戦争である以上、私たちもひどいことをしている。若い世代に被害だけでなく加害の歴史も受け継いでほしい」と力を込める。
 作品は地域の平和学習教材として注目されている。7月に市立柚木中を訪れ、中学2年生に作品を通してダムの歴史を授業した。今後、県立図書館に所蔵され、貸し出される予定。

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