定年退職が迫る60歳公務員。個人年金の受け取り方で税金はどう変わる?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、60歳の公務員の女性。定年退職を間近に控え、個人年金の受け取り方をどうすればいいか悩んでいる相談者。基礎知識をFPの氏家祥美氏がお答えします。


60歳、公務員です。定年退職を控え、子どもの大学進学時期が重なっているためどのように個人年金を受け取ればよいのかわかりません。長女は高校3年生、健康、私立大学進学予定です。私自身は退職後すぐ再任用で勤務継続する予定です。

現在の資産および老後資金の状況は以下のとおりです。

●預金1,000万円

●学資保険340万円

●投資400万円(NISA,国債、投信)

◆退職金は2,000万円予定。

◆公的年金は65歳から年220万円。

◆個人年金(60歳から65歳まで受け取り年齢の変更が可能。60歳なら一時払い選択可。生命保険会社550万円、企業拠出年金750万円)

◆個人財形年金500万円

【相談者プロフィール】

・女性、60歳、公務員

・家族:夫 61歳(パート、健康)、長女17歳(高3、健康、私立大学進学予定)

・住居の形態:持ち家(マンション、北海道)

・毎月の世帯の手取り金額:41万円(自分31万円〔財形貯蓄等の引き落とし7万5,000円含む〕+夫10万円)

・年間の世帯の手取りボーナス額:180万円

・毎月の世帯の支出の目安: 30万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:4万円

・食費: 6万円

・水道光熱費:5万円

・教育費:3万円

・保険料:2万円

・通信費:7,000円

・車両費:2万円

・お小遣い:1万5,000円

・その他:17万円(カード支払い。生活費、固定資産税等キャッシュレス分)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:8万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:100万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):預金1,000万円、学資保険340万円

・現在の投資総額:400万円(NISA,国債、投信)

・現在の負債総額:0円

氏家:ご相談者さんは現在60歳。現在17歳になるお子さんの私立大学進学を控えてこれからがお金のかかり時のため、個人年金をどのように受け取るか気になっていますね。

預金と学資保険で教育費は心配なし

預金が1,000万円と学資保険が340万円ありますから、これらを充てれば、文系・理系にかかわらず、ほとんどのケースで授業料は十分カバーできます。私立の理系で大学院まで進学し、6年間ひとり暮らしもするとなると、これだけでは足りませんが、その場合も2,000万円の退職金の一部を充てれば間に合うでしょう。

すでにある預金と学資保険、退職金の一部で十分に教育費を用意できるので、個人年金の受け取り方法については教育費とは分けて考えられます。これから入ってくる退職金や企業型確定拠出年金等、公的年金等とあわせて、受け取り方を考えていきましょう。

退職金の税金は退職所得控除で0円に!?

ご相談者さんは退職金を2,000万円受け取る予定ですね。まずはこの税金について考えていきましょう。

退職一時金は、税負担を軽減する退職所得控除が利用できます。受け取った退職金から、勤続年数に応じた退職所得控除を差し引いて、さらにその金額を2分の1にした額に税率をかけて税額を計算します。

【退職所得の計算式】
{収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額} × 1/2 = 退職所得の金額

【退職所得控除】
勤続年数(=A)
20年以下:退職所得控除額=40万円×A(80万円に満たない場合は80万円)
20年超:退職所得控除額=800万円+70万円×(A-20年)

具体的にご相談者さんのケースで考えてみましょう。勤続年数が38年とした場合、退職所得控除はこのようになります。

800万円+70万円×(38―20)=2,060万円

退職金が2,000万円、退職所得控除が2,060万円を、退職所得の計算式に当てはめるとこのようになります。

(2,000万円-2,060万円)×1/2=0円

退職所得が0円になるため、ほかに合算する所得がなければ、退職金にかかる所得税・住民税は0円になります。

企業型確定拠出年金の受け取り方法は3つ

ご相談者さんは企業型確定拠出年金にも加入しています。2022年5月の制度改正によって企業型確定拠出年金は、60歳から75歳になるまでの間に受け取り開始をすればよくなりました。

企業型確定拠出年金には3つの受け取り方法があり、どれを選ぶかによって課税方法が異なります。

(1)一時金:退職所得控除の対象。退職一時金があれば合わせて計算
(2)年金:公的年金等控除の対象。公的年金等にかかる雑所得として計算
(3)一時金と年金の組み合わせ:一時金部分は退職所得控除、年金部分は公的年金等控除の対象

ご相談者さんの場合には退職金で退職所得控除の枠をほぼ使いきっています。そのため、企業型確定拠出年金を一時金で受け取っても退職所得控除はほとんど利用できません。

年金として受け取る場合は公的年金等控除の対象になる

年金として受け取る場合には、公的年金と同じく公的年金等控除の対象になります。
計算式は以下の通り。図表と合わせてごらんください。

「公的年金等にかかる雑所得=(a)×(b)-(c)」

控除枠を活用できない場合も

ご相談者さんは65歳以降、公的年金を220万円受け取る予定ですが、この場合の控除額は110万円です。65歳以降、企業型確定拠出年金を年金で受け取っても、すでに控除枠を利用しているため非課税メリットはありません。

企業型確定拠出年金の受け取りに控除を利用したいなら60-64歳の5年間になりますが、ご相談者さんは、退職後も再任用で働き続ける予定があります。60歳以降も企業型確定拠出年金に加入し続ける場合には、この限りではありません。

また、63歳頃から特別支給の老齢厚生年金の受け取り開始が始まると、控除枠はそちらで使われます。つまり、60歳前半でも控除枠はあまり期待できません。

個人年金保険は受取総額の多い受け取り方を選ぶ

続いて、個人年金保険の受け取り方法について考えていきましょう。生命保険会社からの個人年金保険は550万円で、60歳で一時払いをするか、年金形式で受け取るかでしたね。そして60歳から65歳まで受け取り年齢の変更が可能ということでした。

現在加入中の個人年金の詳細が分からないため、一般的なお話をさせていただきます。一般的には、60歳で一括受け取りをするよりも、10年確定年金のように、数年間に分割して受け取った方が保険会社で運用を続ける期間が長くなるため、受取総額は大きくなります。例えば、60歳で一括受け取りをすると520万円の受け取りになるところ、60歳から10年間かけて受け取る場合には、55万円×10年間=550万円が支払われるといった感じです。この辺りの金額はあくまでも一例なので、詳しくは加入している保険会社にお問い合わせ下さい。

どちらの受け取り方法を選ぶかで、税金のかかり方も違います。

ここでは税金についての解説や計算はおこないませんが、かかる税金の差で決めるよりも、受取総額の違いに注目してみましょう。一時金で受け取って運用で増やすというのでない限り、年金形式で受け取って受取総額が増えるなら、そこがメリットになりそうです。

公的年金の繰り下げ受給で長生きに備えましょう

ご相談者さんの場合、退職後もすぐに再任用で働くつもりということですし、ここまで触れてきた退職金や企業型確定拠出年金、個人年金など当面の生活費を確保できるめどがついています。このほかにも、財形年金貯蓄が500万円ありますね。

残る不安があるとすれば、何歳まで生きるのか、長生きした場合に老後資金は足りるのか、ということになるのではないでしょうか。

そこでお勧めしたいのが、公的年金の繰り下げ受給です。繰り下げ受給とは、公的年金の受け取り開始を70歳や75歳などあと倒しにすることで年金受給額を増やすことができます。70歳まで繰り下げると42%、75歳まで繰り下げると84%年金額を増やせるので、併せて検討してみましょう。

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