<書評>『琉球文学大系1 おもろさうし上』 「型」身につけ言葉の旅へ

 少しばかりなじみにくいのではないかと思うが、オモロを読みだす前に、ぜひ、目を通してほしいのが、「オモロの形式」に関する解説である。そこを頑張れば、おもろを読む楽しみが倍加するのは間違いないし、今、これ以上丁寧に読み方を解き明かしたのはないのである。

 型、すなわちコツが身についたら、わくわくするだろう。そこでだが、オモロを読むのに、「第一」の「一―1」から入って行く必要はない。パラパラめくって、面白そうなところから詠誦していくのもいいし、気になる言葉、好きな言葉を探しての旅もいい。本書は、その意味でも、しっかりした頭注と「大意・解説」を附していて、堪能できる。

 例えば、「一―17」に出てくる「せひゃく」について、オモロ原注、沖縄古語大辞典等の注釈に当たっているのは当然のこととして、それで終わることなく、改めて「せひゃく」の「ひゃく」は「百」とは別かと記し、「ひゃーくー」について上里賢一の『琉球漢詩選』、平山良明談話、そして校注にあたった筆者自身の調査に基づいた解を披露していく。異分野への目配りとともに、地域で用いられていた用例をとりあげて、より広く、より身近にあることを示していく。そこまできたら「奥間巡査」の主人公の名前をも、といった欲もでてくるが、そのようにオモロを、なじみやすいものにする工夫も随所でなされている。

 大切なことなので、触れておきたいが、仲宗根政善に仲原善忠を追悼した「三本の指」がある。おもろの校本・辞典・総索引のことである。仲原の死後、外間守善が、その遺志を継ぎ、角川本を完成。そして自身の岩波思想体系本を世に問い、その後に、この「琉球体系本」の登場ということになる。その間のことは『おもろを歩く』にゆずるが、何千回と重ねられてきた研究会があってのものであったということは間違いない。

 田島利三郎に始まり伊波普猷が打ち立て、外間守善が引き継いできたオモロ研究がここまできたのである。

(仲程昌徳・元琉球大教員)
 はてるま・えいきち 1950年石垣島生まれ。「琉球文学大系」編集刊行委員会委員長。主な著書に「南島祭祀歌謡の研究」、共著に「沖縄古語大辞典」「定本琉球国由来記」など。

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