ザ・ビートルズ『Abbey Road』:8月8日、世界で最も有名な横断歩道の写真が撮影された日

1969年8月8日、ザ・ビートルズを象徴する非常に有名な写真のひとつがロンドン北西部の路上で生まれた。名高いレコーディング・スタジオにほぼ隣接する道で、写真家のイアン・マクミランが撮影したその写真は、アルバムのジャケットを飾ることになった。

そのアルバム『Abbey Road』は、イアン・マクミランが立っていた道の名前をそのままタイトルとしていた。写真に映し出されていた横断歩道は、ザ・ビートルズがほとんどのレコードの録音を行ったアビイ・ロード・スタジオのほぼ真正面にあった。アルバム発売後、この横断歩道はロンドンでも特に有名な観光名所のひとつとなった。

イアン・マクミランはジョン・レノンとオノ・ヨーコの友人だった。撮影が始まる前に、彼はポール・マッカートニーが描いたジャケット案のスケッチをふまえ、その横断歩道を渡る四人組というイメージにディテールを加えた。またアルバムの裏ジャケットになったアビイ・ロードの道路標識は、今は存在しないアレクサンドラ・ロードとの交差点でマクミランが撮影している。

アビイ・ロードで撮影された別ショット

撮影現場には、追加ショットを写すカメラマンとしてリンダ・マッカートニーも立ち会っていた。やがて道路が通行止めになると、イアン・マクミランが脚立に上がり、横断歩道を渡るザ・ビートルズの姿を6枚撮影した。採用テイクの選考はポール・マッカートニーを中心に進められ、最終的には5枚目に撮影されたショットが選ばれた。理由のひとつには、4人の歩調が揃っているのがその1枚だけだったこともあった。2012年には没テイクの1枚がオークションにかけられ、1万6,000ポンドで落札されている。

ジャケット写真を撮影した日の午後、ザ・ビートルズとジョージ・マーティンはアビイ・ロード・スタジオの外から中に戻り、新作アルバムのレコーディングを再開した。そこで録音された「Ending」は、その後「The End」という題名になった。スタジオは午後2時半から予約されていたため、マーク・ルウィソーンの『ビートルズ・レコーディング・セッション』(シンコーミュージック刊)にもあるように、撮影後のメンバーはレコーディング開始まで各自時間をつぶしている。

ポール・マッカートニーはキャヴェンディッシュ・アヴェニューの自宅にジョン・レノンを連れて行った。ジョージ・ハリスンはパーソナル・アシスタントのマル・エヴァンズと共にロンドン動物園へ、またリンゴ・スターは買い物に出かけた。この写真撮影日の7週間後に、アルバム『Abbey Road』は発売されている。そのころにはザ・ビートルズのレコーディングの歴史は終わりを迎えようとしていた。

ザ・ビートルズの11枚目のスタジオ・アルバム『Abbey Road』は1969年9月26日に発売された。発表当時、このアルバムはどの評論家からも絶賛されたわけではない。たとえばタイムズ紙のウィリアム・マンはこう書いている。「ライヴ演奏と同じサウンドのレコードを求める人たちからは、イカサマと呼ばれることになるだろう」。

またローリング・ストーン誌では「複雑というよりは難解」と評されていた。一方ニューヨーク・タイムズ紙のニック・コーンは、B面のメドレーを『Rubber Soul』以来久々の「実に素晴らしい楽曲」だとしている。しかしアルバムの「個々の」収録曲は「大した作品ではない」と述べていた。

レコード評の担当者たちは、〆切までに何らかの意見を考え出さなければならないという時間的制約でいつも苦しむものだ。アルバム『Abbey Road』は、今ではザ・ビートルズの最高傑作、あるいは(変化に富んだ)才能の結晶として広く認められている。これは、当時の定義で言えばポップ・ミュージックではなくロック・ミュージックだった。その複雑な構成は、部分的には8トラック・レコーダーで録音されたことから来ていた(ザ・ビートルズがアビイ・ロード・スタジオで従来使っていたのは4トラック・レコーダーだった)。

また『Abbey Road』は、ザ・ビートルズがトランジスタ回路のミキシング・デスク、TG Mk Iだけを使って録音した唯一のアルバムとなった(従来使用していたのは真空管回路のミキシング・デスク)。このTGというデスクには8トラック・マルチトラック録音の音質が向上するという利点もあり、そのおかげもあってオーヴァーダビングの苦労が以前よりも減っている。

エンジニアのジェフ・エメリックによれば、『Abbey Road』の録音で使われたTGデスクでは各オーディオ・チャンネルごとにリミッターとコンプレッサーが組み込まれていたという。その結果、全体のサウンドは従来の真空管回路を使った録音よりも‘柔らかく’なっている。

アビイ・ロードに行くと、季節を問わず、あの有名な横断歩道を渡りながら写真を撮ろうとする人たちがいつも見られる。そうした観光客は、時にはかなりの人混みになることもある。またアビイ・ロード・スタジオの公式ウェブサイトでは、現在の横断歩道の様子を生中継で見ることさえできる。

Written by Paul Sexton

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