<社説>長崎原爆投下77年 「核なき世界」を「現実」に

 きょうは長崎に原爆が投下されて77年となる日である。6日、広島で岸田文雄首相は「核兵器のない世界」を「理想」と述べ、核兵器禁止条約に一言も触れなかった。核抑止力からの脱却を求める松井一実広島市長、湯崎英彦広島県知事との落差が際立った。「核兵器のない世界」を遠い「理想」としてはならない。危機は目の前にある。一刻も早く「現実」とする決意が求められている。 ウクライナに侵攻したロシアの核の威嚇が危機感を高めている。米の国連本部で開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の和田征子事務局次長が演説し、核保有国とその同盟国に対し「不誠実さと傲慢(ごうまん)さのために、人類全体が核戦争の瀬戸際にあることを認識すべきだ」と訴えた。沖縄もまた、核戦争の瀬戸際にあると認識しなければならない。

 米統治時代、沖縄には1300発の核兵器が配備・貯蔵されていた。1959年に米軍那覇飛行場から核弾頭を搭載したミサイルが誤射された。62年のキューバ危機の際には、誤ってソ連(当時)に向けて核攻撃命令が出され、現場の判断で発射が回避された。沖縄は偶発的な核戦争の危険の中にあった。

 これは決して過去のことではない。核武装している可能性のある米国や中国、ロシアの艦船が近海を動き回っている現実がある。今、米下院のペロシ議長の台湾訪問を理由に中国が大規模な軍事演習を強行している。中国の弾道ミサイルは、沖縄の米軍基地や自衛隊基地を標的と想定しているのは間違いない。台湾情勢がこれ以上緊迫すれば沖縄が戦場となりかねず、核兵器がある以上、核戦争へとエスカレートする危険はあるのである。

 昨年11月、米連邦議会の「米中経済安全保障調査委員会」の年次報告が、中国が在沖米軍基地に先制核攻撃をする可能性に言及した。そして同盟国に米の中距離ミサイル配備を受け入れる意向があるかを探るよう求めた。沖縄の島々に自衛隊のミサイルが配備されつつある。沖縄はますます危険に追いやられている。

 核兵器だけでなく、原発の存在も戦争における重大なリスクとなった。ウクライナでザポロジエ原発が砲撃を受けている。原子炉が破壊されれば、チェルノブイリ原発事故よりはるかに広域に甚大な被害を及ぼすだろう。

 そもそも原発は、燃料の製造、使用済み燃料の処理・保管、廃炉に至るまで常に危険が伴う。原発は、核兵器の材料であり猛毒であるプルトニウムの製造装置でもある。原発を核の「平和利用」と見ていいのかということも問われるべきではないか。

 核がある限り、核戦争の危険はなくならない。核兵器をなくす努力とともに、戦争を起こさないあらゆる努力をすると、決意する日にしたい。

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