東京〜ロサンゼルス間の運賃が片道100円! 衝撃価格の裏にある”厳しい事情”とは【コラム】

「電車の初乗り運賃以下じゃないか」、思わず筆者は声をもらした。最近、東京〜ロサンゼルス間が片道100円や、片道1ドルで販売されていると話題になっている。衝撃価格の裏には、見逃すことができない、航空業界全体を襲う"厳しい事情"が存在しているという。

東京〜ロサンゼルス間の運賃が100円に

片道運賃が100円(往復では200円)となっているのは、東京発ロサンゼルス行きの片道・往復、ロサンゼルス発東京行きの片道・往復となっており、東京発はユナイテッド航空、アメリカン航空、デルタ航空の3社、ロサンゼルス発はユナイテッド航空、アメリカン航空、デルタ航空に加え、日本航空(JAL)のアメリカン航空運航便(共同運航)も対象となっている。

対象期間は、2022年〜2023年の冬ダイヤが中心となっているが、9月ごとの一部日程搭乗分から同様の価格で購入できるようだ。

なぜ運賃が100円なのか

なぜ片道運賃が100円なのか。勘の鋭い方はお分かりだろうが、今回の"100円運賃"には「燃油サーチャージ」が大きく関係していると考えられる。「燃油サーチャージ」は、航空会社が設定した運賃に加えて、ほぼすべての旅客に一律に設定・徴収している。日本国内での販売形態では、ほぼ運賃の一部として捉えられている。

2022年8月現在の燃油サーチャージは、先に挙げた各社ともに日本・北米間で片道47,000円で、エコノミークラス・ビジネスクラスなど、搭乗する席に関わらず一律だ。加えて、この燃油サーチャージは国土交通省への届出となり、2か月ごとに改定している。各社とも10月までは改訂しない見通しだ。

つまり、運賃は片道100円であっても、追加料金が片道あたり47,000円かかるため、実際の運賃は片道47,100円、往復だと94,200円となる。ここに諸税などが加算されるので、実際にかかる費用としては10万円を超えてくる。

これまでにも、「燃油サーチャージ」の増減に合わせて、運賃部分を調整することはあったが、これ以上引き下げられない水準にまで引き下げられるのは異例だ。燃油高により、航空券の敬遠ムードが広がる中、なるべく乗ってもらいたい航空各社の思惑が見え隠れするのが、この"100円運賃"なのではないか、と言えるだろう。

ただ、東京〜ロサンゼルス線には、もう一つ、重要な要素がある。そう、あの"ゲームチェンジャー"の存在だ。

ドル箱路線に殴り込み、存在感増すゲームチェンジャー「ZIPAIR Tokyo」

東京〜ロサンゼルス間は、日本発着で最も航空需要が旺盛な路線の一つ。コロナ禍前には全日本空輸(ANA)が羽田・成田から1日3便を運航し、シンガポール航空が以遠権フライトを設定するなど、需要に裏付けされ、毎日10便以上を運航する、日本とアメリカの結びつきを象徴するかのような運航形態であった。

現在も、ANA・JALに加え、ユナイテッド航空、アメリカン航空、デルタ航空、先述のシンガポール航空の6社が運航しており、競争をものともしない、ビジネス・観光需要が共に大きくある、まさにドル箱路線である。

そんな東京〜ロサンゼルス間に2021年12月に殴り込みをかけたのが、ZIPAIR Tokyo(ジップエア・トーキョー)。JALの子会社で、JALが保有するボーイング787型機を導入し、国際線のみを運航する格安航空会社(LCC)だ。

ジップエアは、東京〜ロサンゼルス間で、エコノミークラスに相当する「Standard」を、往復総額7〜8万円程度で提供しており(時期によって異なる)、執筆した時点で、航空券の価格比較サイトではほとんどの日程で、最安値としてジップエアが提示された。

ジップエアはLCCに分類されることが多い。確かに機内食や飲み物、預け入れ手荷物は有料だ。しかし、しかし、電源やWi-Fiが装備され、機内エンターテインメントもWi-Fi経由で提供するなど、ある程度乗客が快適に過ごすことができるようなサービスを提供しているので、侮ってはいけない。

東京〜ロサンゼルス間の所要時間は約10〜12時間、いろいろな過ごし方があると思うが、機内で眠ったり、自分で持参したエンターテイメントを楽しむのであれば、従来のフルサービスキャリアのサービスは不要で、シンプルで必要最低限のサービスを提供するジップエアでよい、という乗客は少なくないはずだ。

ジップエアに客を奪われてしまうかもしれない、という危機感を抱いたのか、少なくとも今年初めには、アメリカの航空各社がロサンゼルス発東京行きの運賃を引き下げていたが、ここまで露骨な価格競争はなく、まだ数ある航空会社の中で、サービスを意識して選んでほしい、というような余裕すら感じられた。

しかし、ウクライナ情勢などを受けて進行した原油高により、航空各社は重い「燃油サーチャージ」を旅客に課すことを余儀なくされ、運賃設定の自由度が減少。燃油サーチャージ制度を実施しないジップエアの価格的優位性に、他の航空各社は太刀打ちできなくなったと言わざるを得ない。その結果、片道運賃が”100円or1ドル”という、歪な状況だ。

航空会社には厳しい時代が続くか

兎にも角にも、燃油高である。世界情勢の不安定さに起因して、燃油コストが上昇している。この燃油コストを適切に転嫁しようとした「燃油サーチャージ」制度であったが、史上最高水準である昨今では、制度設計からの乖離が生じてしまっている。

100円運賃は、そんな燃油コストに直面し、それでも乗客を(コンスタントに)乗せなければいけない航空会社からの悲鳴である。ほぼ不可抗力であり、どうにもならない状況がもどかしい。ポストコロナにおいても、航空会社の厳しい戦いは続きそうだ。

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