特別なケースばかりではない!遺言書がないと相続が大変になってしまう5つのパターン

遺言書がないと相続が煩雑になる可能性が高い5つのパターンをご存知でしょうか。実は子供がいない場合もその一つ。特別なケースばかりではないのです。当てはまっているかいないかチェックしてみましょう。


遺言書があることで、その内容に沿って財産を分けることができ、相続人の間で分け方によるトラブルを防ぐこともできます。財産の分け方や想いを遺しておくことができる遺言書は、まさに「残された家族へのラブレター」なのです。今回は遺言書が必要な5つの項目をご紹介します。

(1)子供がいない
(2)元配偶者との間に子供がいる
(3)行方不明、疎遠な相続人がいる
(4)海外に在住している相続人がいる
(5)財産のほとんどが自宅不動産である

なぜ遺言書が必要なのか、詳しく解説していきましょう。

(1)子供がいない

子供を授かったことがない、もしくは子供を授かったがすでに亡くなっている、離婚した配偶者が引き取っているので一緒に生活していないなど、子供がいないという表現には様々な状況が考えられます。ここでは子供を授かったことがない。もしくはすでに亡くなっている場合のお話をします。

子供を授かったことがない場合の相続人は、父母が存命ならば父母です(養父母も含まれます)。遺言書を書く人の年齢にもよりますが、父母が亡くなっていても祖父母が存命なら祖父母です。父母、祖父母等を直系尊属(父母や祖父母、曾祖父など自分よりも前の世代の血族のこと)と呼びますが、直系尊属が亡くなっている場合は、兄弟姉妹が相続人です。もし兄弟姉妹が亡くなっていればその子(甥姪)が相続人になります。

子供がすでに亡くなっている場合、孫がいれば孫が相続人になります。孫もいない場合、養子縁組をしていない限り、戸籍上の子が存在しないことになり、そうした場合の相続人は、子供を授かったことがない場合と同様、父母が存命ならば父母です(養父母も含まれます)。父母が亡くなっていても祖父母が存命なら祖父母です。

遺言を書く人に配偶者がいれば、配偶者も相続人になります。しかし、配偶者は単独で相続人になるのではなく、子がいれば子+配偶者、子がおらず、父母又は祖父母が存命なら、父母(祖父母)+配偶者、子も父母(祖父母)も存命でない場合は、兄弟姉妹+配偶者というように、配偶者は誰かとペアで相続することになります(子、父母〈祖父母〉、兄弟姉妹〈甥姪〉がいない場合は単独になります)。

そうすると、遺言書が無いと配偶者はペアで相続人になる人と遺産分割協議(財産を分ける話し合い)をしなければ財産を動かすことができません。

父母や祖父母と遺産分割協議をするとなると、年齢にもよりますが、すでに認知症を発症し、話し合いができない状況になっていることもあるかもしれません。認知症を発症した方との遺産分割協議は、家庭裁判所で成年後見人の選任申し立てをして選任された方との話し合いになるのです。

遺言書を作成しなければ上記のようなことが待っています。

【遺言書を作成すると】
遺言書に財産を渡したい人を記載することにより、記載した人へ財産の移転ができます。相続人が何人いても遺産分割協議をすることなく、遺言書に記載されているとおりに財産を渡すことができます。

「配偶者に全部相続させる」内容の遺言書があれば、配偶者は子、父母や祖父母、また、兄弟姉妹と遺産分割協議をしなくても財産を受け取ることができるのです。また、父母、祖父母等が認知症になっていても関係ありません。遺言書によって財産が配偶者に移転する。それだけのことなのです。

(2)元配偶者との間に子供がいる

離婚し、元配偶者が子供を引き取って育てている場合、戸籍上は元配偶者の戸籍に入っていても子供の父(母)の欄には、親の名前は変わらず記載されています。子の親であることは一生変わらないのです。再婚した新たな配偶者との間にできた子も、元配偶者の子も自分の子です。

遺言書が無い場合、相続が起こると、どちらの子も相続人として同じ権利を有します。つまり、遺産分割協議をしなければ財産を動かすことができません。子は、会ったこともない可能性の高い元配偶者の子を探すことからはじまります。居所が分かったところで、事情を話し遺産分割協議をするのは非常に精神的な負担をかけることになることが想像されます。また、遺産分割協議に協力してもらえるのかどうかもわかりません。もし、遺産分割協議に協力しないと言われてしまうと、すべての財産が凍結したまま動かせないことになるのです。

【遺言書を作成すると】
「(1)子供がいない」にあったように遺言書に「今の妻(夫)の子へ財産を相続させる」と記載した遺言書があれば前妻(夫)の子との遺産分割協議は必要ありません。遺言書によって財産を移転することができるのです。

(3)行方不明、疎遠な相続人がいる・(4)海外に在住している相続人がいる

(3)行方不明、疎遠な相続人がいる
この場合も相続人を探して遺産分割協議をしなければならず、探せたとしても協力してもらえるかどうかわかりません。

(4)海外に在住している相続人がいる
この場合は、家族関係が良好であり、遺産分割協議に関して協力的で何も問題ないことも少なくありません。しかし、手続き面で負担になることが多いため、相続手続きをスムーズにするために遺言書作成を勧めることがあります。相続人で日本国内に住民票がない場合、遺産分割協議の際に必要な印鑑登録証明書を取得できません。「サイン証明」と呼ばれる証明書を印鑑登録証明書の代わりに利用することになります。サイン証明は海外の在外公館に出向き在外公館にて領事の面前にてサインを行い、そのサインが確かに本人のものである証明になるものです。サイン証明の取得に手間がかかりますし、「遺産分割協議書」という、決まった財産の分け方を書面に起こし署名押印する書類がありますが、その書類のやりとりも海外となると日数もかかり大変です。

【遺言書を作成すると】
上記のような手間を省くために遺言書で財産の分け方を記載しておくと海外との遺産分割協議のやり取りを省略することができるのです。また、財産の移転もスムーズに行えます。

(5)財産のほとんどが自宅不動産である

自宅不動産が財産の大半を占めていて預貯金をあまり所有していないとなると、平等に分けることが難しい財産になり、遺産分割協議が難航する可能性があります。均等に分けるために不動産を売却する、または、不動産を相続人で共有し所有することになる可能性があります。自宅に住み続ける人がいる場合に、自宅不動産を売却することになると、住む場所を探さなければなりません。また、自宅に住まない人が不動産を共有で持つと、将来的に自宅の修繕、売却になった際には共有者全員の同意が必要になる可能性もあるので、住まない人が共有持ち分を持つことはあまりお勧めしていません。

【遺言書を作成すると】
「自宅に住む人に自宅不動産を相続させる」内容の遺言書を作成しておくと不動産の名義は住む人に移転することができます。こちらも遺産分割協議は必要ありません。

相続人同士の仲が良くても相続人が一人であっても遺言書があると便利

上記5つのパターンで共通することは、遺言書があることによって相続人間で遺産分割協議をすることなく財産の移転ができるということです。相続人間の仲が悪くて話し合いができないと考えられるとき、また、誰かに偏って財産を渡したいときに遺言書はもちろん必須ですが、相続人間の仲が良くても、相続人が一人であっても相続手続きをスムーズに進めるためには遺言書があると便利です。また、遺言書には「遺言執行者」を記載することができ、遺言執行者はその遺言の内容どおりに手続を進める役割を担っています。

遺言書があっても渡す財産に差があるともめごとになることも考えられますが、遺産分割協議ができない状態で、すべての財産の移転ができなくなることよりも、遺言書で財産の移転ができるようにしたあと、別途、財産の偏りを補填できるような対策を考えていくようにしましょう。

相続の対策は、財産額の大小にかかわらず全ての方に必要です。ひとりで悩まず終活・相続の専門家に相談することをお勧めします。

行政書士:藤井利江子

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