伝統芸術愛した心も引き継ぐ 倉敷芸科大に表装道具寄贈

倉敷芸術科学大に寄贈された三宅さん愛用の表装道具類

 「若い人に使ってもらえば、きっと喜んでくれると思います」

 倉敷市の三宅須恵子さん(87)が、今年5月に亡くなった夫の晋一郎さん愛用の表装道具を、倉敷芸術科学大の森山知己教授(日本画)の研究室に寄贈した。表装文化の継承に向けた、森山教授と教え子たちの〓(〓は尾の毛が併の旧字体のツクリ)風(びょうぶ)制作マニュアル作成の取り組みを、山陽新聞の報道で知ったのがきっかけだ。

 使い込まれた刷毛(はけ)や定規は学生たちの手に渡り、日々の創作活動を支える。若い感性が生み出す作品の中に、伝統芸術を愛した晋一郎さんの心も生きている。

 ◇

 大小さまざまな刷毛、胴付のこぎり、定規、木づち…。使い込まれた道具類は手になじむ。「これだけの本格的な道具、今ではそろえようと思ってもなかなか手に入らない。本当にありがたい」。倉敷芸術科学大(倉敷市連島町西之浦)で日本画を指導する森山知己教授は感謝する。

 道具類は、今年5月3日に90歳で亡くなった晋一郎さんが使っていたものだ。釣具店を経営する傍ら、20年ほど前から趣味で表装を楽しんだ。

 和紙を重ね合わせて作品を補強し、絹や金糸で織られた裂(きれ)地で装飾する作業。リウマチを患い、思うように動かない手で、一つ一つの手順に念を押すように丁寧に進めていたという。自宅に残された仏画の掛け軸は、玄人はだしの出来栄えだ。

 亡くなって20日余りが過ぎた5月の下旬、妻の須恵子さんは新聞で、森山教授や同大大学院生らが〓(〓は尾の毛が併の旧字体のツクリ)風制作のマニュアル作りに取り組んでいることを知った。「近くの大学で、若い人たちが頑張っているのも何かの縁。役に立つのであれば」と寄贈を申し出た。

 もともとあった備品だけでは学生数に対して十分ではなかったこともあり、森山教授にとっても寄贈は渡りに船だった。柄が変色していても、刷毛の穂やのこぎりの刃など重要な部分は手入れ、補修が行き届き、長い間、大切に使われてきたことがうかがえる。「一つ一つの状態が良く、道具への愛情を感じる」と森山教授。作品を彩る裂も多彩な柄がそろっている。

 日本画や書は、〓(〓は尾の毛が併の旧字体のツクリ)風や掛け軸、額装として仕上げられ、生活空間に飾られることで輝きを増す。森山教授の研究室では、学生たちが表現技法を学ぶとともに表装への理解も深め、伝統の技の継承に努める。年季の入った道具の数々は、学生にとって何よりの生きた教材にもなる。大学院生で日本画家の原田よもぎさん(26)は「道具と一緒に、表装を愛した三宅さんの心も引き継ぎ、伝統芸術への学びを深めていきたい」と話した。

三宅晋一郎さん

© 株式会社山陽新聞社