【#あちこちのすずさん】河原に薪を拾いに出かけたら…ウサギを追い回す母に衝撃

 戦時下の日常を生きる女性を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」(2016年)の主人公、すずさんのような人たちを探し、つなげていく「#あちこちのすずさん」キャンペーン。読者から寄せられた戦争体験のエピソードを紹介しています。

(女性・79歳)

 終戦の時、2歳だった私は、母と赤児の弟と一緒に栃木県にある母の実家に疎開していました。

 出征した父が迎えにきたのは終戦の翌年か翌々年か。その頃の記憶はおぼろげですが、私はいつも窓辺に小さな椅子を置いて、背伸びしながら「お父ちゃんが来ないねー」と外の田舎道を眺めていました。

 実家は農家で、祖父と伯母が留守を守っていました。

 早くに東京に出て、しかも年子の幼子2人を抱えた母は、農作業の手伝いはできません。幸い、祖父の手作りの乾燥芋や伯母が打ったそばがあり、ひもじい思いはした記憶はありません。

 ある日、河原に薪を拾いに母と出かけて、野ウサギを見つけました。

 母は「今夜のごちそう」と思ったのでしょう、着物の裾を帯に挟んでウサギを追いかけ始めました。私もガンバレガンバレと応援したのですが、足の速いウサギは茂みに飛び込み、姿を消しました。

 普段おっとりしている母が汗だくになって追い回している姿は衝撃で、いまだにその映像が思い浮かびます。

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