<レスリング>【2022年インターハイ】自分より重い練習相手もいない中、本来より上の階級で優勝する非凡さ…男子80kg級・神谷龍之介(三重・いなべ総合学園)

 

(文=ジャーナリスト・粟野仁雄)

 2022年インターハイの個人戦・男子80kg級は、神谷龍之介(三重・いなべ総合学園)が優勝し、3月の全国高校選抜大会に続いて春夏連覇を達成した。

80kg級で春夏連覇を達成した神谷龍之介(三重・いなべ学園)=撮影・矢吹建夫

 準決勝で増田大将(埼玉・埼玉栄)を破ったあとの決勝の相手は、今年4月のJOCジュニアオリンピックカップのU17グレコローマン80kg級優勝の吉田泰造(香川・高松北)。四国の選手ゆえ、無観客とはいえ会場の注目の高さは相手の方が上回っていた。

 その影響があったかどうかは定かではないが、最初に片足タックルを決められ、アンクルホールドと合わせて0-6とリードされた。しかし、落ち着いて相手を見ていた神谷は、すぐに片足タックルで反撃し、相手に乗って動きを制し、最後は見事にフォール勝ち。ワンチャンスを逃さず、第1ピリオドで試合を終わらせた。

 「暑くて、ちょっと夏バテ気味でしたが、体調はよかったです。6点も取られて、ちょっと焦ったけど、慌てず、相手を疲れさせようと思った。絶対に取り返すぞ、と思っていました」と、大逆転にも興奮した様子はない。

藤波俊一監督も驚嘆する非凡な才能

 有力視されていた掛川零恩(山口・豊浦)伊藤大輝(京都・丹後緑風)ら全国高校選抜大会の上位選手が早々に敗退。JOC杯U17で優勝していた浅野心(岡山・高松農)は、U17世界選手権(イタリア)を優先して欠場していた中だったが、きっちりと結果を出した。「最後のインターハイで悔いが残らないようにしたかったので」と安堵の様子だ。

決勝戦、スタートは劣勢をしいられたが、実力を発揮してフォール勝ちに持ち込んだ=撮影・矢吹建夫

 藤波俊一監督も「ああいうところで、フォールで逆転勝ちするというのは、やはり非凡ですよ」と目を細める。

 チーム事情で80kg級に出場したが、本来は74kg級の選手。「チームに練習相手として彼よりも重い選手がいない。試合では相手の方が重いので、グランドも無理すると返される。『あまり無理するなよ』とは言っていました。でも、勝てるだけの技も持っているし、スタミナもあるので、いけるかな、と期待していました。失点もあったけど、落ち着いてよく勝ち切りました」とねぎらった。

 いなべ総合学園は重い階級の選手がおらず、学校対抗戦は125kg級不在での闘いを余儀なくされていた。神谷が一番体重のある選手だ。「神谷の次に重い選手が70kgぐらいです。うちの学校では、重量級の選手相手にもまれることがありませんでした。それで、こういう結果を出すとは、すごいですね」と、藤波監督も愛弟子の非凡さをあらためて認識した様子だ。

9月は練習パートナーとして世界選手権へ“参加”

 「9月の世界選手権(セルビア)では、高谷大地選手(東京オリンピック代表の高谷惣亮選手の弟)のパートナー役で行かせてもらうことになったんです。きっといい勉強になると思います」と喜ぶ。そう語る藤波監督もセルビアに行く予定だが、「私はたぶん、娘の方で行くと思います」。

「伸びしろは十分」と太鼓判を押す藤波俊一監督と神谷龍之介=筆者撮影

 藤波氏は、女子53kg級の世界チャンピオン、朱理(日体大=いなべ総合学園卒)の父親だ。

 「神谷は、まだまだ伸びしろが十分な選手。今後、進学してもっともまれていけば…」と目を細める。神谷本人に進学先を問うと「まだ決まっていません。考え中です」とか。

 「タックルの後の処理が課題だった。それを意識してやっていた。試合では取り切れなかったことが多くて、そこが課題です」。その語り口は、全く浮わついたところがなく、落ち着いている。出場しなくとも、世界選手権の闘いを目の当たりにすれば、吸収するものは多いはずだ。

 今大会、いなべ総合学園は団体戦では、日体大柏(千葉)埼玉栄(埼玉)に続いて3位に入った。男子選手たちも「監督のお嬢さんに続け」とばかり奮闘している。休む間もなく夏合宿に入るそうだ。

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