中森明菜「D404ME」最先端のサウンドとトップミュージシャンが集結!  第27回 レコード大賞 “優秀アルバム賞” に選ばれた名盤

80年代というパワフルな時代を背負った中森明菜と松田聖子

中森明菜は、1982年5月1日シングル「スローモーション」でデビュー。デビューから2か月後の7月1日には早くもファーストアルバム『プロローグ〈序幕〉』が発売されています。

このアルバムにはシングルは「スローモーション」しか収録されていないのですが、当時のアイドルのLPというのは、直近のシングル2枚収録するというのが定番だったので、デビューから2か月後にアルバムをリリースした明菜は他のアイドルと比べるとどこか異質な雰囲気をまとっていたように思います。

「スローモーション」はオリコンの最高位30位だったにも関わらず、アルバム『プロローグ〈序幕〉』は最高位5位。LPとミュージックテープの売り上げを合算すると約45万枚(本)を売り上げています。松田聖子のデビューアルバム『SQUALL』の売り上げが約54万枚(本)ですから、どれだけ高い売り上げだったかおわかりいただけると思います。

80年代というパワフルな時代を背負って行くことになる松田聖子と中森明菜という2人の歌姫は、他のアイドル達とはすでに違うフィールドのスタート地点に立っていたのかもしれません。

アルバムタイトル「D404ME」が意味するものはなに?

1983年、中森明菜は年間シングル売上、年間アルバム売上ともに1位を獲得しています。つまりデビューから1年余りで、日本の音楽界の頂点に立ったことになります。ちなみに、1983年のアルバム年間チャートには、中森明菜のLPが3枚チャートインしています(4位『ファンタジー〈幻想曲〉』、8位『バリエーション〈変奏曲〉』、10位『NEW AKINA エトランゼ』)。当時の音楽業界の常識からしてもかなり異例の記録だったと思います。

そして、1984年あたりから中森明菜のリリースする作品はどんどんアーティスティックになっていきます。

1984年の『POSSIBILITY』、1985年の『BITTER AND SWEET』『D404ME』の3作は特にクオリティの高い作品で、今回ご紹介するアルバム『D404ME』はオリジナルアルバムとしては『バリエーション〈変奏曲〉』に続く売り上げを記録しています。前作のアルバム『BITTER AND SWEET』では、EPO、角松敏生、吉田美奈子、井上陽水、飛鳥涼という、当時のトップアーティストが楽曲提供をしていましたが、このアルバム『D404ME』は、最先端のサウンドとのトップミュージシャンらが集結した最高の作品に仕上がっています。

タイトルの『D404ME』は正式には “ディー・よんぜろよん・エムイー” と読むそうですが、自分は勝手に “ディー・よんまるよん・エムイー” と呼んでいました。その方が何となく語呂が良かったので…。別名「出し惜しみ」とも呼ばれていますが…(笑)。

“D404ME” とは、アルバムのイメージ上のストーリー中にある倉庫番号のことだそうですが、当時、ベイエリアがトレンディスポットだったので、倉庫というのはどこかロマンティックに響いたものです。ベイエリアには、当然のことながら車でしか行くことが出来なかったので、余計にミステリアスなエリアだったのです。

コンセプチュアルなアルバムに含まれた音楽的実験要素

さて、このアルバム『D404ME』。LPのA面は比較的スローな曲、LPのB面はスピード感のある曲で構成されていることからもお判りいただけるように、かなりコンセプチュアルなアルバムで、すでに本作あたりから音楽的実験が始まっていたのかもしれません(次作の『不思議』がかなり実験的なアルバムだったので)。

アルバムの1曲目に収録されている「ENDLESS」は大貫妙子による作曲ですが、大貫妙子ファンの自分としてはかなり嬉しい1曲です。

そして3曲目に収録されている「アレグロ・ビヴァーチェ」。後藤次利が作曲を手がけた曲ですが、明菜の良さを一番引き出している曲だと思います。後に発売される「SOLITUDE」「Fin」に通ずるアダルト路線の名曲で、シングルで発売してもヒットしたんじゃないかと勝手に妄想しています。

LPのB面はデジタルサウンドを前面に出したかなり前衛的なアレンジで、ニューウェーブやテクノ系のサウンドも取り入れていて、今聴いても全く古さを感じさせないサウンドです。

「マグネティック・ラヴ」は作詞:EPO、作曲:大貫妙子、編曲:清水信之が手がけていますが、アルバムの中で特に80年代という時代が色濃く出ている1曲と呼べるでしょう。

この年にレコード大賞を受賞することになる「ミ・アモーレ[Meu amor e…]」は全く違うアレンジが施されていますが、アルバムのメイン曲というよりは、アルバムのボーナストラック的にLPのラストにひっそりと収録されています(ちなみにこのアルバムはレコード大賞の優秀アルバム賞にも選ばれています)。

80年代後半の中森明菜の歌に出てくるのは、自由奔放に生きつつも、愛に傷つき孤独を抱いたまま生き抜いてゆく女性が主人公だったと思います。その狂気にも似た世界は明菜の持つ最大の武器であり、多くの人々が魅了される部分なのです。

いまも多くのファンに愛される歌姫、中森明菜

今年デビュー40周年を迎える中森明菜ですが、残念ながら本人不在の周年ということになりそうです。しかし、リイシュー盤をリリースするたびにヒットを記録し、過去のライブがテレビで放映されるとSNSのトレンドに上がるなど、現在でも多くのファンに愛されているアーティストです。

平成生まれの若い世代からも愛されている彼女ですが、こういう特集を通して改めて中森明菜の魅力をさらに知っていただけたら、リアルタイム世代の人間としてはこんなに誇らしいことはありません。

カタリベ: 長井英治

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