【インバウンドの動向 &不動産契約書面電子化の影響】GA technologiesグループ 神居秒算・趙社長に聞く

世界的に金利引き上げの動きが続くなか、海外の不動産市場はどうなっているのだろうか。中国の状況と日本へのインバウンドへの影響、改正宅建業法の施行後の状況などについて、神居秒算の趙 潔 社長に話を聞いた。

中国の国内市場について

いま中国国内の投資家は実需層を含めてあまり積極的に買いの動きはみられない。そのため全体でみれば価格は調整局面だ。中身をみると一部の不動産だけが値上がりしているという印象だ。値上がりしているのは、例えば上海などの一級都市のごく一部のエリアにおける一部のゴージャスな物件などだ。値上がりは一部の物件のみだ。

その理由をどうみる

そもそも物件の供給が少ない。一方でコロナによる大都市のロックダウンの影響で中国国外へ離れる富裕層が増えている。昨年1年間で海外へ移住した富裕層が1万人超存在し、合計で480億ドルが国外へ持ち出されたしたというニュースに注目している。こうした富裕層は海外へ移住に向けて資金を確保するため手持ちの不動産を売る。上海の一等地などの不動産を売っている。物件の供給は少ないので需要は強く、こういう条件の物件だけが値上がりしている。

金利動向は

1、2ヶ月前から住宅ローンの変動金利が0.15%程度下がっている。ただし今後については金利の先高観がある。そのため買いのニーズも復活してくるのではないか。だから中国の不動産市場がこのまま下がるということはないと思っている。たしかに上海のロックダウン以後、一部物件は売れなくなってきている。とくに郊外の築古不動産が安くしても売れない状況だ。こういう築旧の団地などはロックダウンの際の管理会社の対応が悪かった。そういう旧いマンションは皆いやだと感じている。加えて新築も郊外で開発中の団地の建設がストップし、引き渡しができない事例が増えてきている。そのため購入者のローンの返済そのものを停止しようという声がではじめた。今後は不動産に限らず銀行の融資審査は厳しくなるだろう。金融引き締めの動きは確実だ。

上海のロックダウンの影響について

私は上海出身だ。上海在住の友人の声を代弁すると、皆苦しかったと言っている。だからロックダウンが終わったら海外へ行きたいと口をそろえる。コロナを契機に、彼らは中国国外に居住権を持った方が有利だということを実感している。中国の富裕層は子供をインターナショナルスクールに通わせることが一般的だが、今後は子供の教育も含めて家族まとめて海外へ脱出するという人が増えると思う。神居秒算でも中国国内のユーザーから日本への移住の問い合わせが増えてきている。

コロナ前の訪日外国人の人数は年間3188万人だった

ちなみに訪日外国人の半分は中華圏の中国・台湾・香港人だ。彼らは日本の良さを知っている。日本では宅建業法が改正され、海外に居ながらにして実物を見なくても気軽に不動産が買えるようになった。だが市場の先行きまではオンラインだけは感じ取ることができない。必ず観てから買うというわけではないが、その国であるとか投資先として有望なエリアなのかどうか確認がてら来日するのではないか。2019年は3188万人もの外国人が日本を訪れたが、海外の投資家が最も不動産を購入したのも19年だ。訪日外国人旅行者の伸びと投資はリンクしている。日本がいいと思った外国人は日本の不動産を買う。そもそもまだ日本に一度もいったことがない中国人は大勢いる。仮に訪日外国人の人数が5000万人まで引き上がると それとともに外国人の投資が増える筈だ。

円安の傾向は不動産投資にどう影響する

東京の23区内の区分マンションの利回りのピークは2015年頃。当時は都心でも表面利回りは5、6%あった。だがいまは値上がりしたので利回りが下がっていることは中国人も把握している。低金利もいつまで続くかはわからない。そのためメリットとしての円安効果は限定的でそこまで旨みは感じられないのではないか。ただし上海より東京の方が価格は安い状況ではあるので、状況を注視している。

不動産のオンライン取引が可能となった、5月の改正宅建業法施行後の動きはどうか

7月下旬の時点で当社(神居秒算)と取引のある日本国内の華人経営の不動産会社10社程度にヒアリングしたところ、導入したケースは確認できなかった。なぜ導入しないのかというと、オンライン契約が可能なったという事実は知っているが、だからといってすぐに導入することは難しく準備に時間が掛るという回答が目立った。これまでのやり方である代理人を経由した契約といったやり方に慣れていて、新たに別の方法を導入すると、どのようなコストが掛かるかわからないということだと思っている。そもそも社員10ー20名程度の小規模企業ではコストを気にして導入はしにくいだろう。20ー50名クラスの中堅がどう動くかだ。

一方で日系企業では導入が進んでいるようだが

実際に親会社のGA technologiesでは成約実績が出たし、RENOSYの利用者でも成約事例がある。だがこうした新しい仕組みというものは、普及するまでは一定の時間が掛るものだ。徐々に広がってはいくだろう。半年、1年と少しずつ事例が積み上がってきてから、本格的に普及していくのではないだろうか。オンライン契約を提供するネット企業がどう不動産会社にアピールしていくかに掛っていると思う。GAグループとしてはオンライン契約のツールを開発しているイタンジがいる。こうしたグループ企業と連携は密に図っていきたい。

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