なぜ今、韓国との対話が必要なのか 「第10回日韓未来対話」参加者4氏が語ります

 言論NPOは9月3日(土)に「第10回日韓未来対話」を開催します。それに先立って今回のフォーラムに参加する小此木政夫氏(慶應義塾大学名誉教授)、河野克俊氏(前統合幕僚長)、古城佳子氏(青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科教授)、添谷芳秀氏(慶應義塾大学名誉教授)の4氏が、「なぜ今、韓国との対話が必要なのか」を語りました。

 小此木氏は、日韓関係の改善について、韓国の司法が慰安婦問題や徴用工問題に介入したことで、問題の解決を難しくしたとの認識を示す一方で、韓国の新政権が誕生した今のチャンスを逃してしまうと韓国内が分裂し、問題の解決は長期化していくだろうとの見方を示しました。

 その上で小此木氏は、日韓関係を改善していくためには、国家間の関係が悪くなっても、民間がセーフティネットの役割を果たし、関係を下支えしていくことが重要であると語りました。そして、日韓首脳が日韓関係構築に意欲を示しているタイミングで開催される今回の「日韓未来対話」が、日韓関係を新しい次元に持ち上げていく一つの機会にしたいと、今回の対話に臨む意気込みを語りました。

 古城氏はまず、戦後の日韓関係は「第一に経済関係だった」と振り返りつつ、日韓の産業構造が同じようなものになってきた結果、「互いに相手の存在が必要不可欠であるという要素がだんだん少なくなってきており、二国間だけの経済協力によるメリットをあまり感じられなくなってきている」と分析。さらに、「韓国のポップカルチャーのようなソフトな産業をめぐって新しい結びつきがあるが、製造業のような既存の産業ではこれ以上の協力はなかなか難しくなってくる」などと日韓経済関係の構造的変化を指摘しました。

 一方で米中対立が深刻化する中では、安保では米国と、経済では中国と深い関係があり、ジレンマを抱える日韓には協力すべき課題はあると主張。そこで、米中対立の激化を抑えたり、あるいは中国が地域のスタンダードに合うのであれば取り込むような枠組みを作ったり、大国間の分断に左右されないルールづくりなどで協力できることはあると語りました。

 最後に古城氏は、すぐに双方の国内状況に左右されてしまう日韓関係の現状を打開するためには、やはり対話が重要であると主張。また、歴史の転換点の中でウクライナ問題など「非常に悪い材料がたくさん揃っている」中では、地域の不安定化を防ぐための努力も不可欠であるとしつつ、そのためにも「政府だけでなく民間にも大きな役割がある」とし、日韓未来対話に向けた意気込みを語りました。

 添谷氏は、政権交代後の日韓関係について「変革のチャンスである」と切り出し、過去の二国間関係の教訓を踏まえ、「感情よりも外交理性を優先し、地道に実質的な協力関係を積み上げていくべき」と語りました。その点で、国民感情の改善をはじめ、理性と感情のバランスが取れた健全な二国間関係づくりのための「日韓未来対話」は地道な対話の取り組みに期待を寄せています。一方で、目下の日韓関係の障害である徴用工問題については、1965年の日韓請求権協定に合意した際、日韓それぞれが別の解釈を維持したまま「暗黙の理解」で進めた部分が現在になり表面化し、双方の意見の食い違いになっている点を指摘。この点については、65年協定を主導した日韓の政治指導者に倣い、妥協の精神を呼び起こす必要があり、そのためにも現在の政治家のリーダーシップと度量が試されていると強調しました。

 さらに、将来の日韓関係に向けて、より広い視点から、同じ価値観や課題を共有する多国間のフレームワークの中で日韓が協働することで二国間の協力関係を発展させる可能性についても言及。また、中国を巻き込んだ地域の秩序作りでも日韓が中心的な役割を果たすことにも期待を示しました。

 河野氏はまず、核保有国ロシアが非保有国ウクライナを核によって恫喝したウクライナ戦争を教訓とした北朝鮮が、「核廃棄をする可能性は限りなくゼロに近づいた」と指摘。また、日米欧など民主主義体制国家と中ロなど専制主義体制国家の対立が「世界のうねりとなっている」中では北朝鮮は当然後者に入るとしつつ、そのような世界の分断下では米朝交渉の進展は望めないとの見方を示しました。

 河野氏は、北朝鮮は今後日韓を射程とすべく弾道ミサイルに搭載するための核兵器の小型化を進めると予測。こうした中では日米韓の連携した対応が不可欠としましたが、それにもかかわらず日韓の安全保障関係が機能不全に陥っている現状を問題視しました。

 一方で河野氏は、韓国で日韓関係の修復に前向きな尹錫悦新政権が誕生したことから関係改善については楽観視しましたが同時に、民間の役割の必要性も強調。今回の「日韓未来対話」に臨むにあたっては、言うべきことを言わずに取り繕うような議論ではなく「より率直な意見交換をする。場合によっては言い争いになってもよい」などと本音の議論をすべきと主張。具体的な議論テーマについては、「文在寅政権時には、韓国は日本よりも中国を優先的に考えていた政策が多かった。本当にそれでいいのかという問題提起をしたい」と意気込みを語りました。

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