佐世保・福石中のリュウゼツラン咲く 幻の花 卒業生の“郷愁”

高さ約10メートルに成長したリュウゼツランの花=佐世保市立福石中

 「45年ぶりに母校の近くを通ったら、幻の花といわれるリュウゼツランの花が咲いていました」-。長崎県佐世保市出身の主婦、中村久美子さん(61)=福岡県在住=から、長崎新聞の情報窓口「ナガサキポスト」にそんな便りが寄せられた。同市干尽町の市立福石中(福野生人校長、232人)に足を運ぶと、リュウゼツランにまつわる卒業生らの“郷愁”に出会った。

◆50年に1度

 九十九島動植物園(森きらら)によると、リュウゼツランはメキシコを中心に自生する多肉植物。花茎が高く伸び、多数の小さな花を咲かせる。約50年に1度花を開かせ、開花後に親株は枯死する。
 同校には、正門のそばにリュウゼツランを植栽した「竜舌(りゅうぜつ)園」がある。今となっては作った理由は分からない、同校の沿革史に1966年10月19日に完成したと記されている。現在は約30株が根付いており、ここ数年は毎年いずれかの株が開花している。今年は7月初旬に、高さ約10メートルに成長した1株が黄色い花を咲かせ始めた。学校管理員の熊本敬太さん(43)は「一生に1度の開花だから、全うさせてやりたい」と花茎を支える支柱を設置するなど、手入れに余念が無い。
 中村さんが在学していた時にも開花したことがあった。教員が興奮気味に「50年に1度しか咲かない花が咲いている。見ておきなさい」と話していたと懐かしむ。「当時、想像より地味な花だなと思った。けれど印象的だったからずっと覚えていた」と声を弾ませる。卒業以来同校を訪れることは無かったが、今月中旬に帰省して、通学路を探索中に開花に気付いた。花を見て、当時の学校の様子などが昨日のことのようによみがえったそうだ。

◆「育てたい」

 学校関係者に取材していると、中村さん以外に最近、リュウゼツランのことで学校を訪れた卒業生がいたことが分かった。熊本県で書道教室を営む太田雅子さん(72)。
 太田さんは6月下旬、妹と一緒に同校を訪れた。リュウゼツランの子株を譲ってもらうためだ。在学当時、太田さんも開花したのを見たことがあり、「不思議な花だな」と思ったという。卒業後もずっと気になり、帰省のたびに姿を確認していた。最近になり、自宅の庭で育てたいとの思いが強くなり、子株を分けてくれるよう学校にお願いした。「開花までに何十年もかかるから、生きている間には間に合わないかもしれない。それでも花を見ることはひそかな夢です」と楽しそうに話した。

◆特別なもの

 福野校長は、父親が同校の教員だったことがあり、小学校低学年のころ学校を訪れ、リュウゼツランがあったことを覚えている。福野校長は「正門近くに植栽されていることもあり、生徒にとってはなじみがある存在。そんな存在だからこそ、特別なものとして卒業生の中にも残っているのかもしれませんね」と話した。
 ありふれた日常こそ、時がたつほどに輝きを増すのかもしれない。(堀内優子)

© 株式会社長崎新聞社