追悼・森崎和江“伝説のドキュメンタリー”2作をRKBテレビで放送

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詩人で作家の森崎和江さん(今年6月逝去)が、制作に深く関わった約半世紀前のテレビドキュメンタリーが、8月14日の深夜、RKBテレビで放送される。この再放送に携わったRKBの神戸金史(かんべ・かねぶみ)解説委員が、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、番組の魅力について語った。

文学史に足跡 森崎和江さんを追悼して

森崎和江さんが、お亡くなりになりました。95歳でした。福岡で長く暮らしておられて文学史の大きな足跡を残しています。「からゆきさん」「まっくら」をはじめ有名な作品がいっぱいあって、今再刊されて手に取りやすくなっています。

森崎さんは1927年(昭和2年)、日本の植民地だった朝鮮で生まれました。敗戦の前の年、17歳で現在の福岡女子大学に進学しているんですけれども、そこで初めて日本の内地で暮らすことになりました。つまり、思い出の古里は、森崎さんにとっては朝鮮なんです。懐かしい光景、夕陽、いろいろなことを詩に書いています。懐かしさとともに、「侵略する側」の人間として、朝鮮の人たちを使って自分をかわいがってくれた。いたたまれなくなる気持ちを残したまま成人していく。生まれ育ったところが外地で故郷。そこはもう、自分にとっては追い出されてしまって帰れなくなったところ。複雑な気持ちになるだろうなと思います。このあたりが、森崎さんの文学の原点になっています。

筑豊の炭鉱で働く女性を記録したルポルタージュ「まっくら 女坑夫からの聞き書き」が、代表作の一つです。インタビューがありますので、お聴きください。

森崎和江:私、炭鉱のこと全く知らなかったでしょ。そしたらたくさんの人がいて、坑内に働きに行っていらっしゃるんですよね。それで、おばあちゃんたちはもう働かずに、孫世代が今働いていらっしゃるので遊んでいらっしゃるわけ。お会いして「お話聞かせてください」と言ったらもう喜んでね、「縁側に座りなさい」とおっしゃるわけですよ。いろいろと話してくださるのね。私、涙を流して聞きましたよ、あまりびっくりしてから。その方々のお話を聞くことによって、「ああー」と思って。何とかしてね、彼女たちの話をしっかりと聞いて、「方言で働いてきた人々の生活を、自分の生活としたい」と思って。本なんか読むのを止めてから、そうしようと思ったのね。そして初めて出した本が「まっくら」です。それで20年間、炭鉱の町に住んでいて、日本のあちらこちらを、方言で働きながら暮らしている人たちを訪ねて、「日本の国がどういう風な国だろう」ということをちゃんと知りたくてね、あちらこちら歩き出したんですよね。

このインタビューは9年前、当時86歳。とてもかわいいおばあちゃんが、思い出しながらしゃべっているという様子でした。いろいろな人たちの方言を聞き取りながら記していく。地元で暮らす人たちの心情がしっかり書かれているのが、森崎さんの文学の一つの特徴です。

衝撃のドキュメンタリー『まっくら』(1973年)

『まっくら』タイトル

この「まっくら」に着想を得て、同じタイトルのドキュメンタリー番組『まっくら』(1973年放送)を制作したのが、RKBの木村栄文ディレクター。エイブンさん、偉大な先輩です。内容は、原作とかなり違うんです。ほとんどの場面で俳優を起用した、異色のドキュメンタリーが『まっくら』です。炭鉱の閉山が続く筑豊に流れている「情念」みたいなものを描こうとしたのかな、と思うんです。俳優ばかりのドキュメンタリーって、普通はあり得ないですね。作った時、大変な議論を巻き起こしたんです。「これはドキュメンタリーなのか?」「役者じゃないか、ドラマじゃないか」。この方の声を聞いてみてください。

炭鉱夫:カメラさんは、何ば撮られよらすと? え? ああー、この荒れ果てた閉山地帯ば取材しようっちゅうわけじゃな。んー。ということはじゃな、現代社会の本質的部分を、その、告発しようっちゅうわけじゃの? へ?

常田富士夫さん

この声、は常田富士男さん。テレビアニメ『まんが日本昔話』のナレーターで有名ですね。僕らは子供のころから慣れ親しんだ声です。この人が炭鉱夫の役を演じていくんです。森崎さんは番組の構成も担当して、自分も出演していて、全然中身は違うけれどタイトルは一緒の『まっくら』。日本のドキュメンタリー界に衝撃を与えた、伝説のドキュメンタリーです。

『まっくら』のワンシーン

『祭りばやしが聞こえる』(1975年)はリアル「フーテンの寅」

『祭りばやしが聞こえる』タイトル

もう一つの作品が、2年後の1975年に作られた『祭りばやしが聞こえる』。テキヤと呼ばれる露天商の世界を、哀歓を込めて克明に描いた番組で、筥崎宮(福岡市東区箱崎)の秋の祭り、「放生会(ほうじょうや)」が主な舞台となっているんです。半世紀前の放生会はこんな感じだったのか、記録映像としてもとても面白いです。その中で、この音をお聴きください。

テキ屋の世界を取り仕切る大親分

テキ屋「わたくし、生まれついての口不調法者です。申し上げまする仁義、間違えましたら真っ平ごめんなさい。わたし、生まれ育ちも九州、南の果て薩摩路、鹿児島の住人です。稼業上の親と発します、先年故人となりました、芸州安芸の国は広島、ナガノ一家名乗りますアラタフサヨシです。野郎従います実子三代目、姓はアラタ、名はマサミです。お見かけ通りのガサツ者です。いずこ、いずちの地にまいりましても、お友達さん、おあ姉さん、先輩衆の厄介者です。以後、見苦しき面体見知りおかれまして、恐惶万端、行く末引っ立ててうお頼う申します」

(こんな口上は)映画『男はつらいよ』では寅さんが言いますけれど、初めて見ました。フーテンの寅さんもテキ屋さん、各地の祭りを転々としながら行商していく露天商です。実際に語った「仁義」が、この番組の中に残されていた。聴いたら、びっくりしますよね。

木村栄文さんが作った『祭りばやしが聞こえる』は、まさにリアル「フーテンの寅さん」。悲しみと喜びとが描かれたドキュメンタリーです。

詩のような森崎さんのナレーション原稿

そして森崎さんはリポーター役をされていて、ナレーションの原稿も森崎さんが書いているんです。とてもいいので、聴いてみてください。

「私はこの後も、折に触れて祭りに出かけていくことでしょう。そして、感じ続けると思います。家を飛び出して、テキ屋になった若者の心や、彼を案じている親御さんのことや、雨の日のお年寄りのテキ屋さんの胸の内や、老いるまで下積みで苦労するであろう人々の人生について、などを」

素敵な文章です。ナレーションの原稿はドキュメンタリーにとってとても大事なんですが、木村栄文さんは森崎和江さんに預けている。『まっくら』と『祭りばやしが聞こえる』という伝説のドキュメンタリー、森崎和江さんが深く制作に携わっている。今週末に、夜中ですが放送します。ぜひご覧ください。

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「『まっくら』『祭ばやしが聞こえる』連続放送 作家・森崎和江さんをしのんで」

8月14日(日)深夜 25時55分~28時25分

[=15日(月)午前1時55分~4時25分]

https://rkb.jp/news-rkb/20220805000000/

岩波文庫から60年ぶりの復刊「まっくら 女坑夫からの聞き書き」

https://www.iwanami.co.jp/book/b591607.html

※RKB神戸解説委員からのお願い

半世紀近く前の番組なので、登場する人は多くの方が亡くなっていて、連絡先ももうわかりません。『祭りばやしが聞こえる』では、宮藤朋真(ともさだ)さん一家のつつましやかな生活が描かれ、ケイコさんという中学生の娘さんが出てきます。お元気ならば、「宮藤ケイコ」さんは60歳すぎくらいだろうと思われます。ご連絡先を知っていらっしゃる方がおられましたら、番組宛てに情報をお寄せいただけませんでしょうか(gu@rkbr.jp)。放送があることお伝えしたいのです。「ケイコちゃんは教員になった」という未確認情報もありますが、「宮藤」は旧姓となっている可能性もあります。よろしくお願いいたします。

田畑竜介 Grooooow Up

放送局:RKBラジオ

放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

出演者:田畑竜介、田中みずき、神戸金史

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