【サンデー美術館】 No.292 「『どういうわけか』美しい」

▲バラ 松田正平 1980‐90年代 山口県立美術館

 「戦争中、花も何もない時期に炭鉱の炭掘りをやる毎日に、道ぞいに偶然のように赤いバラが咲いていましてね。どういうわけか、そのバラはとても美しかった。それまでバラはたくさん見てはいましたけど、『美しいな』と思ったのはその時が初めてでした。いま思うと、格別、特殊なバラということではなかったと思うんですけど」。

 バラの名手とうたわれ、数々の名品を残した松田正平が、その美しさに初めて出会った時のことを語った言葉だ。

 道ぞいに、偶然のように咲いていたバラ。どうということもないバラなのだが、これが「どういういうわけか」美しかったというのである。

 これが、どういうわけだか美しいのだ。

 ※コレクション展「松田正平と宇部」(9月4日まで)展示作品より

山口県立美術館副館長 河野 通孝

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