コーヒー注文は手話で 障害者支援の「ディファビス」

チタヤム・ファッション・ウイーク」で有名になったMRT「ドゥク・アタス」駅と首都圏鉄道「スディルマン」駅の連絡通路となっている高架下。そこに、コーヒーと菓子を売る、2つのスタンドがある。売っているのは聴覚障害の人たちだ。「Saya tuli(私は耳が聞こえません)」との注意書きがあり、店の前には、手話での注文方法を写真入りで説明したバナーが立てられている。さぁ、手話で注文してみよう。

「私は耳が聞こえません」「メニューを指してください」との注意書き

手話での注文の仕方

「Saya(私)」で、自分を指差す。「mau(〜したい)」は、胸の前で手のひらを上に向ける。「pesan(注文)」で、相手を指差す。「minuman(飲み物)」は、片手でコップを持っている仕草。「panas(熱い)」は、両手をパタパタと、あおぐようにする。「dingin(冷たい)」なら、ブルブル、と震える仕草。

バナーの写真を見ながら、ぎこちなく一つずつ動作をすると、店員は笑みを浮かべて、自分も流れるように同じ動作を繰り返し、正しい手話を教えてくれる。ああ、なるほど。

続いて、「どれにしますか?」と言うように、メニュー表を指差された。メニューの中から、「kopi susu aren(ミルクとヤシ砂糖入りのコーヒー)」を選んで、指差した。「less sugar(砂糖控えめ)」と書かれた文を指差され、うなずく。できた、通じた!

手話は、テレビのニュースの通訳などで毎日のように目にしているのだが、自分とは違う世界の事柄のように感じていた。もちろん、自分で手話を使う機会などない。手話は習っていないし、知らないし。それが、「コーヒーを注文する」という日常の一シーンで、初めて手話を使うことができた。外国語を初めてしゃべって「通じた!」というのと同じような、感動と楽しさだった。

手話を使わずに、ただメニューを指差す、というやり方でも注文はできる。しかし、積極的に手話でのコミュニケーションを呼びかけているところが素晴らしい。

店名の「Difabis(ディファビス)」とは「Difabel Bisa(障害者は、できる)」という意味だ。障害者の自立支援を目的とし、喜捨(zakat、イスラム教徒の義務の一つ)の運用団体である「Baznas(Badan Amil Zakat Nasional)」のジャカルタ支部が運営している。

Baznasは、被災者支援から地域活性化まで、幅広い慈善活動をしている。障害者支援としては、この「ディファビス」運営のほかに、車椅子や義足、補聴器の供与などを行っている。

手話で「インドネシア」はどう言う?

「ディファビス」は、公共スペースである連絡通路の使用許可をジャカルタ州政府から得て、コロナ禍中の2021年1月にオープンした。テイクアウトを中心に営業を始め、2022年3月には、北ジャカルタと東ジャカルタにあと2店舗をオープンした。

「『障害者は働かなくてもいいよ』と言う人もいる。世の中には障害を持った人がいるということ、そして障害者も普通に活動できるし働ける、ということを身近な場で示したい。障害者自身も、仕事をしてコミュニケーションをすることによって、もっと自信を持てるようになる」と、Baznasボランティアで広報担当のギギンさんは語る。

スディルマン駅店で働いている障害者は計6人。大学生でもあるシファさん(24)は、「ここでは勉強することがたくさんあって楽しい。売り方やコミュニケーションの方法など」と話す。

客とのコミュニケーションは、手話、読唇、指差しなど、いろいろ。客の中には、スマホでテキストを打って見せたり、音声をテキストに変換して見せる人もいる。いろんなツールも出来ているお陰で、コミュニケーションにほぼ支障はないと言う。

ここで働いて4カ月になるラマさん(26)は「すごく早口の人は読唇が難しいので、ゆっくりめにしゃべってくれれば。『手話を教えてほしい』と言う人もよく来る。そう言われると、うれしい」と話した。

手話で「インドネシア」と「日本」をどう言うか、教えてもらった。えっ、それが「インドネシア」で、それが「日本」?!と、びっくり。答えは是非、「ディファビス」へ行って、聞いてみてください。最後に、手話で「ありがとう」も忘れずに。

聴覚障害者の店員のシファさん(左)とラマさん。シファさんは菓子スタンド、ラマさんはコーヒースタンド担当

コーヒーや菓子を買って「誰かにプレゼント」することもできる。寄付したい人がステッカーを貼り、誰でも欲しい人がステッカーを取って、無料で菓子やコーヒーをもらうことができる。ボードがプレゼントのステッカーでいっぱいになることもあり、取って利用する人は物乞いの人やオジェック運転手らだという

Difabis スディルマン駅店
首都圏鉄道「スディルマン」駅近くの高架下
7:00〜19:00(日祝13:00)
コーヒー・お茶1杯1万〜1万5000ルピア

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